2024年度 西千葉子ども起業塾イベントレポート


2024年7月31日(水)8月2日(金)8月3日(土)8月9日(金)の全4回で、「西千葉子ども起業塾2024」が開催されました。JFEスチール株式会社からの『JFEちばまつりに出店するキッチンカーのオリジナルメニューを開発する!』ミッション達成に向けて、子どもたちが「会社」に分かれて企画・提案を行います。

執筆者:猪狩はな 撮影:株式会社2L

西千葉子ども起業塾とは?

「西千葉子ども起業塾」は、千葉大学教育学部・藤川大祐研究室が中心となり、Seedlings of Chibaが主催するプロジェクトです。2010年から毎年開催しています。小学4年生~中学3年生を対象とし、子どもたちが「会社」を作り、企業へのヒアリング、事業の企画・提案、経理や納税を体験することで、会社や経済の仕組みを学ぶプログラムです。起業家精神を育み、チャレンジ精神や働くことへの理解を深めることを目的としています。

今回は、そんな「西千葉子ども起業塾2024」の様子をレポートします!

1日目 JFEスチールについて知ろう

1日目は、子どもたちが自分たちの「会社」を設立する日となりました。会場となったJFEスチール株式会社東日本製鉄所千葉地区見学センターにて、『JFEちばまつりに出店するキッチンカーのオリジナルメニューを開発する!』というミッションが発表されました。子どもたちは、JFEスチールのことをたくさんの人に知ってもらえるような「ピザ開発」の依頼を受けました。オリジナルピザの開発に向け、まずは4つの会社にわかれて、社長、副社長、企画部長、経理部長といった役職を決めます。各会社ではそれぞれの役割について話し合いました。

さあ、午後からは、いよいよJFEスチールの工場見学!子どもたちはトランシーバー、ビニール手袋、ヘルメットを装備し、わくわくしながら工場へ向かいます。製鉄所を見る機会はそうそうありません。工場見学後、子どもたちは見学で気づいたことを話し合います。ピザ作りに活かせる「JFEらしさ」を考え、アイデアをまとめます。そして、会社設立の手続きへ。税金や資金の流れなど経済の仕組みに苦戦しつつも、一生懸命に取り組みます。全チームが無事に会社設立を完了し、1日目を締めくくりました。

2日目 「一人前の社会人」として、大人たちと交渉!

2日目は「どんなピザを期待しているか?」をJFEスチールの方にヒアリングしつつ、本格的な企画立案を進めました。用意した質問を投げかけ、JFEスチールの希望に沿った商品開発を目指します。真剣な雰囲気の中、活発な質疑応答が行われました。

西千葉子ども起業塾の基本方針は「子どもたちを一人前として扱う」。大人たちも手を抜かず、真剣に意見をぶつけます。子どもたちも社会人としてのマナーを守り、自分たちの事業の必要性を伝える姿がありました。午後からは、ヒアリングをもとに具体的な企画立案を進めます。西千葉子ども起業塾では、「ドルフィン」という疑似通貨を使用し、資金調達から始め、事務用品の購入、デザイナーへの発注など、実際の会社運営にも必要な業務を体験します。企画に使うタブレットや文房具類も資金の中でやりくりするのです。仕事を進めるうえで必要なものを手に入れるために各ブースに行くのですが……なんと、ブースに待機するのは「本物の社会人」! 

銀行であれば、千葉銀行の本物の銀行員の方。デザインを発注するのは、千葉市で活躍するデザイナーの方。専門家と対話しながら仕事を進めてい子どもたち! さらにこの日は、千葉市にある合同会社proveLiFEの山本社長も参加しました。proveLiFEは「食×エンターテイメント」を軸として様々な事業展開をしていて、ピザのキッチンカー「RUBBER TRAMP」を運営しています。今回の起業塾では子どもたちが考案したピザの試作を担当していて、食材選びのアドバイスや打合せを行いました。山本社長からは、「利益を出すのと同時に、楽しむ心も忘れずに」とメッセージがあり、子どもたちのやる気もますます高まります!

商談や打ち合わせに向けて、さらなる準備が必要だと見えてきた様子。子どもたちの真剣な姿勢が印象的な2日目となりました。

3日目 商品開発の詳細を詰める!

3日目は、各会社にとって勝負の日。商談や打ち合わせが集中するこの日、子どもたちは暑さに負けず全力で取り組みました。この日の大一番は3回目となるJFEスチールとの商談です。子どもたちは前回までの商談を踏まえた具体的な提案を行いました。紙粘土で作成したピザのサンプルを作って持ってくる会社もあり、JFEスチールの方も熱心に耳を傾けます。残りの時間では、商談内容を踏まえてさらに企画を深めていきました。

商品開発の詳細を詰めるため、アンケート調査も実施。デザイナーの方へのデザイン依頼も行う会社も出てきました。4日目のプレゼン資料への期待も高まります! 一日を通して、各会社は商談、企業やデザイナーとの打ち合わせを精力的にこなしていきました。すべての会社が締切までに企画書の提出を終え、いよいよ残すは最終日のみ。いったいどのようなピザができ上がるのでしょうか?

4日目 とうとうプレゼン!果たして評価は……?

西千葉子ども起業塾2024の最終日は、子どもたちの努力の集大成となるJFEスチールへのプレゼンからスタートしました。午前中、各会社はプレゼンの最終準備に取り組みます。さらに、子どもたちが考案したピザが実際に焼きあげられ、いよいよ4社によるプレゼンテーションが行われました!

最終プレゼン

JPA社 / 商品名:オリジナルハーフ&ハーフピザ

溶けた鉄をイメージした赤色、会社のなかにグリーンがたくさんあったところから思いついた緑色を使ったハーフ&ハーフのピザ。ピザではめずらしい、鶏肉や小松菜などの具材を使う提案をしました。

Happiy piza社 / 商品名:Happiy piza

JFEスチールロゴカラーである青色をブルーベリージャムで表現したり、巻いたベーコンで鉄のロールの形を再現しています。半分がフルーツピザ、もう半分が野菜ピザとなっており、食べていて飽きません。 

∞元気! happy会社 / 商品名:ご安全に!ピザ

この1枚でJFEスチールのことが学べるピザ。ピザの具が鉄を作る工程を表しているだけでなく、中心のピースでJFEスチールが大切にしている挨拶「ご安全に」を意味しています。

ドルフィンメーカー社 / 商品名:鉄分豊富!! 魔法のシー(海)とランド(陸)ピザ

海が近くにあることを、海と陸の具材を使うことで表現。JFEスチールの「鉄」をイメージし、鉄分が豊富に含まれている食材をたくさん使いました。

続いて、各社の評価と報酬の発表が行われました。JFEスチールの担当者から、それぞれの企画についてフィードバックをもらいます。結果として、4社中2社が黒字を達成! なかでもHappiy Piza社が最高評価を獲得し、247,500ドルフィンの報酬を手に入れられました。

▼最高評価を獲得! Happiy Piza社からのコメント▼

会社のみんなで協力して、話し合いながら企画を考えて一生懸命頑張ってきました。その頑張りがJFEの方に伝わったことで、いい評価がもらえたのだと思うので、とてもうれしいです!


プレゼン後、子どもたちは自分たちが考案したピザを試食!

3日間の努力が形になった瞬間を、喜びと達成感を持って味わいました。

午後は、お給料で買い物タイム。給料袋に入れられたドルフィンを握りしめて、「どれを買おうかな?」と吟味していきます。ここまでの緊張感たっぷりの雰囲気から一転、リラックスした表情がたくさん見られました。

最高評価を獲得したHappiy Piza社の商品

成果発表会

最後に成果発表会が開かれ、各会社がピザの名前、特徴、業績を発表しました。練習の成果を存分に発揮し、どの会社もわかりやすく発表。締めくくりに、千葉市長 / Seedlings of Chiba会長の神谷俊一さん、千葉大学教育学部長 / 教授の藤川大祐さん、 JFEスチール株式会社東日本製鉄所副所長の下村俊博さんによる試食会も行われました。それぞれの会社のピザに対して、おいしさをわかりやすく食レポ! 子どもたちだけでなく保護者の方からも笑い声があがるほど盛り上がりました。4日間にわたる西千葉子ども起業塾2024は、子どもたちに実践的な起業体験と達成感を与え、大きな成功を収めて幕を閉じました。

左から千葉市長 / Seedlings of Chiba会長の神谷俊一さん、千葉大学教育学部長 / 教授の藤川大祐さん、JFEスチール株式会社東日本製鉄所副所長の下村俊博さん

西千葉子ども起業塾 ~未来の起業家たちの4日間~

アントレプレナーシップ教育が少しでもたくさんの人に広がってほしいという願いのもと、毎年開催されている西千葉子ども起業塾。この4日間は、子どもたちが協調性、創造性、問題解決能力を活かす貴重な機会となりました。西千葉子ども起業塾は、参加した子どもたちの心に起業家精神の種をまけたのではないでしょうか。彼らが得た自信は、将来の進路選択や社会での活躍に活かされることでしょう。「自らの意志を持って自分の人生を切り拓く力」の育成に向け、西千葉子ども起業塾は毎年進化を続けています。子どもたちの成長と、それを支える西千葉子ども起業塾の今後の展開に目が離せません!

参加した子どもたちの声

▶算数や計算が得意ではないのですが、経理の担当になりました。同じ経理担当の人と力を合わせたので、計算をスムーズに進められました。融資をもらうためにはどうしたらいいかを考えて作戦を立てたり、予算のなかでどうお金を使うかを考えて買い物したりするのが楽しかったです。違う学年の初対面の人といっしょにやるのに大変なこともあったけど、話し合ってできたのでよかったなと思います。

▶困ったこと、トラブルがあったときもあったけど、協力して乗り越えられました。工場見学の時間がおもしろかったので、そこで学んだことを活かしてピザ作りのアイデアに入れました。

運営に関わる方々からのメッセージ

千葉大学教育学部長 / 教授・藤川大祐さん

西千葉子ども起業塾も、早いもので今年で15年目です。最初は駅前の商店街の納涼イベントを企画して、最終日に実際にイベントを開催する形からスタート。途中から千葉市とJFEスチールさんとで協力して行う現在の形になりました。今年度は前年度までと違い「ピザのメニューを考える」という子どもたちにとってイメージしやすいミッションでした。それもあってか、子どもたち一人ひとりが活躍している場面をたくさん見られました。とくに2日目に行った社長面談では、どの会社も自分たちの会社の事業内容をしっかり伝えられており、やり直しもなし。とても印象に残りました。子どもたちの周りには、「仕事」を身近に感じられる機会はそんなに多くはありません。西千葉子ども起業塾のように、楽しみながら仕事を体験できる場があること、自分で自由に考えられる題材があることは、それだけで大きな価値があるのではないでしょうか。今後も西千葉子ども起業塾を起点として、多彩な企業とも関わりながら、さまざまな切り口からアントレプレナーシップ教育が広がっていくことを期待しています。

西千葉子ども起業塾 2024年度塾長・川村杏莉さん

それぞれの子が自分の役割を理解し、できることを積極的にやろうとする姿勢が印象的です。全体を見渡して指示を出す子、文章をまとめる子など、それぞれの個性を活かした活躍が見られました。最初は控えめだった子もだんだんと自分の得意分野で活躍できるようになっていき、うれしかったです。創造性や主体性を引き出すために、粘土やスケッチブックなど多様な選択肢を用意し、子どもたち自身が選べるようにしました。また、今回心がけたのは「運営側が押し付けるのではなく、子どもたちの判断を尊重する」点です。悩むこともありましたが、子どもたちがだんだんと心を開き、協力し合う姿を見られたことが何よりのやりがいとなりました。今回の経験から、適切な指示を出すリーダーシップの重要性と、それぞれが役割を全うできる環境作りの大切さを学びました。今後の人生でも、どんな立場になってもこの学びを活かしていきたいです。

大学生スタッフ・真鍋和愛さん

私たち運営スタッフには、各会社の活動について「手を出さない、見守るだけ」というルールがあります。そのため、そばについてはいるものの、声かけは最低限に留めなければならず、始めは「会社として成立するのだろうか」と不安でした。しかし子どもたちが運営する会社のメンバーたちは社長を中心に作業を分担し、時には熱い議論を重ね、なんの補助もなく自分たち自身の力で企画もプレゼンもやり切ったのです。自由な発想と行動力で驚かされた場面が度々あり、その様子はまるで文明を開花させていくようでした。子どもたちは大人が思うよりずっと「自分たちで未来を開拓する力がある」と思います。今回目の当たりにした子どもたちの推進力を信じ、教員として働く時にどう活かせるか、考えていきたいです。

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