2025年度 西千葉子ども起業塾イベントレポート


2025年7月29日(火)、7月30日(水)、7月31日(木)、8月8日(金)の全4回で、「西千葉子ども起業塾2025」が開催されました。JFEスチール株式会社からの「JFEスチールらしさをアピールできるパンまたはお菓子を開発する」というミッションの達成に向けて、子どもたちが「会社」にわかれて企画・提案を行います。
執筆者:猪狩はな 撮影:株式会社2L

西千葉子ども起業塾とは?

「西千葉子ども起業塾」は、千葉大学教育学部・藤川大祐研究室と千葉市を中心にSeedlings of Chibaが主催しているプロジェクトです。小学4年生~中学3年生を対象とし、2010年から毎年開催しています。子どもたちが「会社」を作り、企業へのヒアリング、事業の企画・提案を体験することで、会社や経済の仕組みを学ぶプログラムです。起業家精神を育み、チャレンジ精神や働くことへの理解を深めることを目的としています。

今回は、そんな「西千葉子ども起業塾2025」の様子をレポートします!

1日目:JFEスチールについて知ろう

2025年の起業塾がついに開幕! 教室には期待と緊張が入り混じる空気が流れます。

千葉市経済農政局・安部浩成局長、千葉大学教育学部長・藤川大祐教授、JFEスチール東日本製鉄所・下村俊博副所長からの挨拶の後、子どもたちは初めての名刺交換に挑戦! 名刺を手にした瞬間、少し誇らしげな笑顔でした。テーマ発表後、4つの個性豊かな会社が誕生。各チームは社名に思いを込め、活動をスタートさせます。

午後はJFEスチールの鉄づくりを知るための工場見学へ。迫力ある設備と広大な敷地に子どもたちも驚きの連続でした。その後は協力企業のBakeryトイット菓子工房Noahを紹介され、さっそく活動計画やテーマ選び、融資準備に着手しました。

2日目:商談&商品開発スタート!

2日目は朝からフル稼働! 社長面談では、各社の社長が塾長や中小企業診断士と真剣に話し合い、悩みや課題の解決を目指しました。続くJFEスチールとの相談タイムでは「JFEスチールらしさ」をどう表すか、限られた時間で質問をぶつけます。

並行して、Bakeryトイット、菓子工房Noahとの商談や試作品づくりに着手しました。たくさんのアイデアを持ち込み「どの商品であれば実現可能か?」真剣に話し合います。

業務に必要な買い出しは「なんでもや」で行います。西千葉子ども起業塾では、仕事で使うものと個人の持ち物を区別するために、筆記用具以外の私物は使えません。

西千葉銀行では、会社の経営に直結する融資交渉を進めました。融資は時に容赦なく却下されることもあり、頭を抱えながらも戦略を練り直します。

午後には方向性が固まり、各社の商品イメージが少しずつ形になってきました!

3日目:商品開発の詳細を詰めていこう!

後半戦に突入した3日目。商品開発が加速する一方で、「JFEスチールの要素が消えた!」「全部やり直しだ!」と混乱するチームも出てきました。それでも何度も商談を重ねるなかで、Bakeryトイット、菓子工房Noahが持参してくれた試作品を見て、子どもたちのやる気は再び上昇!

Bakeryトイット
菓子工房Noah

午後は最終打ち合わせ。細部まで詰めた商品案を決定し、いよいよ企画書提出です。ホワイトボードに描き込む会社、タブレットで資料をまとめる会社など、やり方はさまざま。全員が全力で駆け抜けました。

4日目:とうとうプレゼン!果たして評価は……?

西千葉子ども起業塾2025の最終日。準備時間を経て、いよいよ4社によるプレゼンテーションが行われました。まず子どもたちは、自分たちが考案した商品を試食! 3日間の努力が形になった瞬間を、喜びと達成感を持って味わいました。

実際に自分たちが味わった感想を織り込んで、JFEスチールへのプレゼンテーションに臨みます。

各社の開発したパン・お菓子と、感想・評価をご紹介していきます。

A社:KOJP会社「スラブパン」価格:699円

 JFEスチール製の鉄の硬さをフランスパンで、溶けた鉄の熱さをベリーやジャムで表現しました。黒い生地の上に白い生地を乗せて焼くことで、表面は黒くしあがります。約1,100度に加熱されたスラブの近くで働く人の大変さを伝えたいという想いを込め、甘く上品なスイーツのようなパンにしました。ラッピングのリボンはJFEスチールカラーの青を使用しています。

▼子どもたちの感想

「甘くてフルーツ好きな人におすすめ。想像よりずっしり重くて、食べ応えがあります」

▼JFEスチールからの評価

「食べやすくておいしい!ベリーやジャムがぎっしり詰まっていて大満足でした」

B社:小学生キズナ会社「スラブブレッド」 価格:620円

工場見学で印象に残ったスラブの見た目を再現したショートブレッド。アイシングとフランボワーズの粉をかけて熱い鉄とスラブのイメージを表現しました。飽きないようにプレーンとココアの2色セットにし、さっぱりとした程よい甘さで食べやすく仕上げています。

「スラブの熱さは遠くからでもわかるほどすごかったので、それをお菓子にして伝えたい」という想いを込めました。常温で数週間保存可能です。

▼子どもたちの感想

「2色入りなので食べ比べたり、好きなほうと交互に食べてもいいかもしれません」

▼JFEスチールからの評価

「そのまま、まさにスラブの形をしていて、シンプルでわかりやすい。甘すぎず酸味もあっておいしいです」

C社:We会社「スチールスコーン」価格:670円

 「JFEスチールは見た目は硬そうだけど、中の人たちは心が優しい」という工場見学での気づきをスコーンに込めました。しっとり柔らかい食感になるように仕上げています。

水色のチョコペンで「JFE」と書き、チョコチップは鉄、ラズベリーは鉄の赤、砂糖は鉄を冷やす水を表現。スコーンという馴染みの少ないお菓子にすることで、印象に残るお土産を目指しました。常温で2週間保存可能です。

▼子どもたちの感想

「スコーンは甘くないイメージだったけど、アイシングやチョコチップが入っていることで甘くしあがりました」

▼JFEスチールからの評価

「見た目よりしっとりしていて食べやすい。製鉄は硬いイメージがあるので、お土産がポップで可愛いのはうれしいです」

D社:JSYC会社「鉄パン」 価格:720円

工場見学で最も印象に残ったコイル(鉄板を巻いたもの)を再現した厚切り食パン。ベーコン2枚でコイル、トマトソースで熱くなった鉄板、チーズで溶けた鉄の様子、2.5cmの厚切り食パンで鉄板を表現しました。「工場見学を体験したからこそわかることを形に」というコンセプトで、具材一つ一つにJFEスチールの要素を込めています。迫力のある見た目で記憶と写真に残ることを狙い、ボリューム満点の一品に仕上げました。

▼子どもたちの感想

「食べるのがもったいない! 想像してたよりも厚みがあってボリューミー。コショウがアクセントになっておいしいです」

▼JFEスチールからの評価

「分厚くてボリュームがあり、満足できるパン。コイルはJFEスチールの製品なので着目してくれてうれしいです」


どの会社も工場見学での体験を独自の視点で商品に落とし込み、JFEスチールらしさを表現することに成功。子どもたちの創造力と3日間の努力が実を結んだ素晴らしいプレゼンテーションでした。

決算

プレゼンと試食会の後、いよいよ各社の業績発表!JFEスチールからの評価と報酬の発表に、子どもたちは緊張の面持ちで耳を傾けました。

評価が出たら、決算作業に入ります。支出、収入をまとめて最終的な業績を出していきます。各社の決算作業では、なかなか金額が合わず苦戦するチームも。収入と支出、融資の返済など、複雑な計算に頭を悩ませながらも、経理担当者を中心に最後まで諦めずに取り組む姿が印象的でした。

各社の業績結果

KOJP会社

黒字達成
(利益13,940ペン)

小学生キズナ会社

黒字達成
(利益23,800ペン)

We会社

黒字達成
(利益4,408ペン)

JSYC会社

黒字達成
(利益83,700ペン)

※ペン:西千葉子ども起業塾内で使う仮想通貨の単位(1ペン=1円)

なんと、4社すべてが黒字を達成するという結果となりました!西千葉子ども起業塾の歴史のなかでも、全社黒字はめずらしいことです。子どもたちの頑張りが業績にも現れる結果となりました。

そのなかでも、今回最も利益を得られたのはJSYC社!コイルを模したベーコンが、JFEスチールらしさで高評価を勝ち取りました。

お給料で買い物タイム

午後は、もらったお給料や会社の利益でお買い物タイム。緊張した面持ちから一変、楽しそうに笑顔で商品を眺めます。自分たちで稼いだお金で買い物をする体験は、子どもたちにとって特別な時間となったでしょう。

閉塾式 ~来賓による試食会・講評~

さあいよいよ4日間のラスト、閉塾式がスタート。

閉塾式では、千葉大学教育学部長・藤川大祐教授、JFEスチール東日本製鉄所(千葉地区)総務部・岩元亨部長、千葉市雇用推進課・西村久恵課長補佐による試食会も行われます。それぞれの作品を食べていただき、感想コメントもいただきました! ここではその一部をご紹介します。

KOJP会社「スラブパン」

載っているベリーが濃厚で、周りの黒い生地が『鉄』という感じがしてとてもよい

藤川教授

ジャムがたくさん載っていて、パンとのバランスが絶妙です

岩元部長

とてもおいしかった。リボンがかかっているのもわくわくします!とても素晴らしい商品です

西村課長補佐

小学生キズナ会社「スラブブレッド」

上品な味でアフタヌーンティーとともにいただきたい。工場見学のあとにおうちで食べたらすごくいいと思います

藤川教授

ほんのり甘くて、現場の人も食べたくなるようなおいしさです

岩元部長

サイズが小さくて、小さな子も食べやすい。家族でわけあって食べるのも楽しい商品です

西村課長補佐
藤川教授

We会社「スチールスコーン」

チョコチップが効いていておいしい。お腹がいっぱいでもいけちゃう味です

藤川教授

上にJFEと書いてあるのがいいですね。会社のカラーが青ですが、食品に青色を使うのは難しい。そんななかで、こんなふうにバランスよく書いてもらえてうれしいです

岩元部長

材料に着目した作品で、おもしろい。ボリューム感もありとてもおいしいです

西村課長補佐
岩元部長

JSYC会社「鉄パン」

ベーコンが鉄のように巻いてあって、量があってお腹空いてるときに食べると最高

藤川教授

惣菜パンみたいな感じでおいしい。下のパンも鉄板イメージ、上もコイルのイメージで、全体でうちの会社を表現できているのものですごい

岩元部長

唯一の塩味系の商品ですね。朝食べたら、1日頑張れそうです

西村課長補佐
西村課長補佐

3名の来賓の方々からそれぞれ異なる視点でのコメントをいただき、子どもたちの多様なアイデアと工夫が高く評価された試食会となりました。

最後に、うれしいサプライズ!

今年度の西千葉子ども起業塾には、うれしいサプライズが待っていました。Bakeryトイット、菓子工房Noahのご厚意により、子どもたちが考案した商品が期間・数量限定で販売されることが決定!まさかの展開に子どもたちも大喜びで、自分たちのアイデアが商品化されることの喜びを実感していました。

みなさん、4日間本当におつかれさまでした!

西千葉子ども起業塾~未来の起業家たちの4日間~

今年度の西千葉子ども起業塾も、参加した子どもたちの心に起業家精神の種をまけたのではないでしょうか。今回の経験は、将来の進路選択や社会での活躍にきっと活かされることでしょう。

「自らの意志を持って自分の人生を切り拓く力」の育成に向け、西千葉子ども起業塾は毎年進化を続けています。参加した子どもたちの成長と、それを支える西千葉子ども起業塾の今後の展開から目を離せません!

参加した子どもたちの声

お土産を考えるのは意外と難しくて大変だったけど、Bakeryトイットさんや菓子工房Noahさんに助けてもらっていい商品ができてよかったです。

最初はどんなのが出来上がるか心配でしたが、最後はおいしいパンができました。

みんなと協力して考えた企画が形になったのでうれしかったです。途中でお菓子を変えたため試行錯誤をしたけれど、結果的に納得できるお菓子になりました。

社長をやりましたが、みんなをまとめなければいけなかったので大変でした。実際に会社の社長が大変なのもわかって、いい経験になりました。

みなさまからのコメント

千葉大学・横手幸太郎学長

西千葉子ども起業塾の取り組みは、千葉市のご協力で教育学部・藤川先生を中心に2010年から始まりました。今、起業や起業家精神というものは日本にとってすごく大事だと言われています。それを15年前から、小中学生対象で行ってきたというのは、先見性があったと言えるでしょう。これからこの経験をされた小中学生のみんなが将来どんなふうに活躍していくのか、とても楽しみです。

JFEスチール東日本製鉄所(千葉地区)総務部・岩元亨部長

「製鉄所をイメージできるもの」というものは、大人でもなかなか出てこない難しいものです。だからこそ、見学のお土産として「製鉄所に行ってきたよ」と見せてもらえるものを作る、というのはなかなか難しいお題だったと思います。社員でも答えが出せないものを、みなさんに考え、カタチにしてもらえてありがたいです。この経験がみなさんの将来に役立ち、日本経済を支えていただけるように頑張っていただければと思います。

Bakeryトイット・石毛義人さん

企画段階から最終プレゼンまで通しで参加し、子どもたちの様子を間近で見させていただきました。こちらが伝えたことに対して、子どもたちなりに一生懸命考えて解釈し、よりよいものを作っていこうという姿勢が本当に素晴らしいと思います。

今回パン職人という立場から、子どもたちと意見を交わしつつも「どうやったら希望を叶えられるのか」「子どもたちのアイデアを形にするにはどうしたらいいか」一緒に検討し、パンを作り上げました。最終日のプレゼンでは、パンを発表する子どもたちの様子を、つい親のような目線で見守ってしまいましたね。子どもたちが「会社」としての立場から商品を企画し、経営する姿を見ていて、私自身もとても勉強になりました。

菓子工房Noah・伯部あやのさん

最初はうしろのほうにいた子が、最終日には前に出て「こういうものが作りたいです」と自分の意見を言ってくれる姿があり、とても感動しました。はっきり意見を言える子だけでなく、ふだん黙っている子にも、自分の考えや希望がある。その想いを言葉に出して、相手に伝えることが大切だと思っています。西千葉子ども企業塾の企画を通し、それが少しでもできるようになったことは、子どもたちにとって大きな一歩ではないでしょうか。

この4日間は、子どもたちにとって大きな成長があった充実した時間になったと思います。自分の想いや考えを伝え、相手の意見を受け入れること。お菓子に限らず、今後もまだ見ぬ作品を生み出していってもらえたらと願っています。

2025年度西千葉子ども起業塾
さくら塾長・まお秘書

今年のテーマをお菓子とパンにしたのは、子どもたちがなにを作るのか選べるようにしたかったからです。食品にすることで、なにをしたらいいかわからない人が出ないよう工夫し、みんなが参加できるようにできたと思います。

西千葉子ども起業塾では、子どもたちの自主性を重んじているため、大人からあれこれ指示をせず、危機管理だけをするよう徹底しました。ガイドブックやワークシートを見れば子どもだけでも作業できるような環境づくりを心がけました。この意識づけがあったからか、だんだんと子どもたちが自分から動くようになったのが印象的です。いい意味でだんだんと「騒がしく」なっていきましたね。4日を通して、「これは自分がやるよ」と周りを見て動けるようになりました。

今回の経験を通して、自分1人でやるのではなく、自分がいなくても場がまわるように組織を作る大切さを実感できたと思います。誰かに託すためには周りの人に教える必要がある。教えるためには、自分がさらに詳しく知っている必要があります。大変でしたが、「任せる」ことの大切さを学べました。みんなと協力したからこそ、この規模のイベントを達成できたと思います。ありがとうございました。

記事一覧