2024年2月24日(土)千葉市役所にて「起業家教育トークライブ~「すき」を「しごと」に変える~」が開催されました。
「ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba」では、さまざまな立場からアントレプレナーシップ教育について発信を行っています。
今回のイベントでは「すき」を「しごと」に変えるをテーマとし、実際の起業家をはじめ、Seedlings of Chibaのイベントに参加したことのある学生まで、多彩な方々に登壇いただきました。
執筆者:猪狩はな 撮影:栗原論
少子高齢化、人生100年時代、AIの台頭など、未来の子どもたちの生活や仕事を取り巻く状況はこれまでとは大きく変わります。不確実な社会の中で生きていく力を子どもたちに身につけてほしいという願いから、千葉の子どもたちに向けたアントレプレナーシップ教育(起業家精神)を推進しているのがSeedlings of Chibaです。
ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba
アントレプレナーシップ教育とは?
一般的には「起業家を育成するためのもの」ですが、Seedlings of Chibaで掲げるアントレプレナーシップ教育では、未来を切り開き、これからの社会を良くするために活動する起業家の方々がもつ力を身につけることを目指しています。
イントロダクション ~Seedlingsのご紹介~
スピーカー:千葉大学教育学部4年 髙砂文音さん(令和4年度西千葉子ども起業塾塾長)
ゲスト:高校生 小関優葵美さん(西千葉子ども起業塾参加者)
中学生 山本るなさん(CHIBA-ZOOTUBE参加者)
実際に社会で活躍する起業家や社会人の方々からのアドバイスを受けながら、会社や経済の仕組みを学ぶイベント。子どもたちは会社を立ち上げて、お金のやり取りをしながら黒字を目指します。企業の困りごとを解決したり、よりよいアイデアを提案したりできる本格的なビジネス体験ができる企画で、優れた提案の場合は、商品化などもされます。リアルなビジネスに触れることで課題発見・解決プロセスを疑似体験し、アントレプレナーシップを育みます。
小関優葵美さん(西千葉子ども起業塾参加者)
私は、学校の先生からの紹介をきっかけに、西千葉子ども起業塾に参加しました。いい経験が身につくだけでなく、社長以外にも、それぞれの個性を生かした役割、立ち回りができるのが、過ごしやすく、リピートしました。
最初は、大人相手の交渉に緊張する部分もあり、なかなかうまくいかなかったのをよく覚えています。交渉・提案の中でJFEさんの想いに応えられていないことがわかり1から作り直すこともあったんです。だからこそ、作った企画がデザイナーさんなどプロの手によって形になったのを見たときは達成感もありました。
ここで学んだことは学校生活にも役立っています。このときの融資や税金の説明が、学校などでも使えているんです。起業塾のお陰で、求められている質も勘案して、タスクを割り振りスケジュールを組める、今の自分がいます。
小中高校生は普段、親や学校の先生、塾の先生との関わりしかないですが、起業塾はそれ以外の人と関われる。しかも、「子どもだから」という理由で活動が制限されることがない環境で、気づかぬうちに成長できました。
千葉市動物公園を舞台に、今注目を集める動画制作を行う企画です。ただ好きに動画を作るのではなく「動物たちが健康で、過ごしやすい環境をつくる」という動物公園の想いを発信するミッションを背負って制作に取り組みます。2023年度は「環境エンリッチメント」の考え方を一般の方に知ってもらえるような動画を作りました。
山本るなさん(CHIBA-ZOOTUBE参加者)
イベントに参加したキッカケは、千葉市動物公園が大好きだったという点が大きいです。発信に関われる上に動物の知識も活かすことができるこの企画は、私にぴったりだと思いました。
イベントでは「動物公園が取り組んでいる環境エンリッチメントの工夫を、わかりやすく伝えられるといいな」と思いながら動画を作りました。
撮影・編集も自分たちで行ったのですが、撮影対象が動物なので、思い通りのシーンが撮れずに大変な場面もありました。発表当日に写真や動画が足りないことに気づいて、大雨の中頑張って追加の写真撮影に行ったことが印象に残っています。作った動画は、友達や先生たちも見てくれて、誉めてもらえた事がとても嬉しかったです。
CHIBA-ZOOTUBEで違う学校の子・初対面の子たちとも協力して1つの作品を作ったことが、すごくいい経験になったなと思います。学校以外でも自分の力を発揮できたことが自信になり、全校生徒に向けた発表にも挑戦できるようになりました。前の自分ではできなかったことが、もっとできるようになったと思います。普段の学校では学べないこともたくさんあって、とても勉強になりました。
講演
株式会社PLUS-Y代表取締役 永田洋子さん
「すき」を「しごと」にできる?
働き方改革や柔軟な働き方が広がるなかで「好きなことを仕事にしよう」という声を聞く機会が多くなりました。それと同時に、以下のような質問もよくされます。
- 本当に好きなことで稼げる?
- 仕事なんだから、好きなことばかりではない
- 好きなことじゃないと仕事にしてはいけないの?
- 好きなことが見つからない
確かに、好きなことを専門にして職業にするのは確かに狭き門です。しかし、それは「すき」を表面的に捉えすぎているかもしれません。
「すき」の気持ちを細かく分けて考えてみると……
- わくわくする
- うれしい
- 苦労せずに結果が出せる
- 集中して取り組める
- 興味がある
- ……
私は、こういった「すき」を積み重ねて「しごと」にするイメージで捉えるとよいのではないかと思っています。
また、「すき」を「しごと」にと言われると起業をイメージする方も多いかもしれませんが、会社で働く中でもできることです。起業はあくまでも、働き方の選択肢の1つとして捉えていただければと思います。
挫折と模索を繰り返して今がある
私は現在「女性マーケティング事業」「起業サポート事業」「介護事業」の3つの事業を展開しています。また、最近では「ビジネスチャレンジプログラム」という子どもへのアントレプレナーシップ教育を私立高校で提供しています。
こういった話をすると、「すきなことだけできて、いいね」、「挫折なんてしたことはないんでしょう?」と言われることもありますが、全くそんなことはありません。学生時代、会社員時代、バリキャリ時代、起業初期の「4つの挫折」を味わってきました。そのたびに、挫折を学びに変えて、とにかく模索しながらやってきた感覚です。
本当に好きなことで稼げるのか?
そんな今までの経験から冒頭のご質問に答えていくと、こんな回答になります。
・本当に好きなことで稼げる?
「人から求められること」も必要です。好き・得意だけでは稼げません。ビジネスにはスキルが必要で、好きだけではできないこともたくさんあります。好きなことと、人や社会から求められることの真ん中を探してみてください。
・仕事なんだから、好きなことばかりではない
その通り!でも、好きなことも大切です。嫌いなこと、苦手なことばかりを仕事にしてたら嫌になってしまうでしょう。好きなこと、得意なことのほうがモチベーションも高まるし、パフォーマンスも上がります。
・好きなことじゃないと仕事にしてはいけないの?
「好き、得意、やりたい」は、仕事の原動力になる気持ちです。熱心にできる、がんばってできる仕事をするためにも、好きなものの中から仕事を探してみるといいのではないでしょうか。
・好きなことが見つからない
先ほど細分化したように「すき」を広く考えてみてください。わくわくすること、楽しい気持ちになれることの中にヒントがあるかもしれません。
アントレプレナーシップはAI時代を生き抜く力
今の世の中は、予測できない変化がたくさんあります。人工知能の進化によって、単純労働がなくなるとも言われます。そうした時代であっても必要とされるのは、アントレプレナーシップを持った人材だと思うんです。
アントレプレナーシップ教育は、社会で働くための準備運動でもあると共に、AIに負けない生きる力で未来を広げることだと感じています。
料理研究家・再現レシピ研究家 稲垣飛鳥さん
料理にハマったのは小学校3年生のとき
私は現在、料理研究家・再現レシピ研究家として10年活動しています。ですが、高校・大学は音楽科、子どもをもつ前はフルート奏者をしていて、料理について専門的に学んだことはありませんでした。
料理が趣味になったのは、小学校3年生のときに友達の家でお菓子作りをしてからです。スポンジケーキを焼いたのですが、仕上がったケーキを見て「おうちでケーキができるんだ!」と心から感動しましたね。お店で売っているお菓子を自分の家でも作れる面白さから、どんどんお菓子作りにはまっていきました。
そういった経験もあり、結婚してからもカフェで食べたメニューを再現したり、外食風のごはんを作ったりもしていたんです。
「すき」が「しごと」になった転機はテレビ出演
そんな私の転機は、全国放送のテレビ番組に出演させていただいたことです。
産後、育児をしながらフルート奏者として夜働くのは難しくなりました。昼の時間を活かせないかと考えた私は「主婦向け雑誌の読者モデルに絶対なる!」と決め、1年前から準備を重ねたんです。努力が実って料理カテゴリーのモデルに採用されてからは、料理研究家のレシピを「つくれぽ」するところから活動をスタート。ベネッセのサイトで発信し、それが誌面にも載り、「再現レシピ食べ比べ」でのテレビ出演につながりました。放送の翌日にはYahoo!検索1位を獲得し、出版やラジオ、テレビ出演の依頼をいただけるようになりました。
こうして、趣味として「すき」でやっていた料理が「料理研究家」、「再現レシピ研究家」の「しごと」になり、現在もこうして活動を続けています。
子どもへのアントレプレナーシップ教育
さて、子どもへのアントレプレナーシップ教育についてですが、実は私は「我が子にアントレプレナーシップ教育をしよう」とはあまり考えていません。ですが、振り返るとこれはアントレプレナーシップ教育につながっているのかも、と思う取り組みをご紹介させていただきます。
例えば「YouTube動画作成のお手伝い」。娘はYouTube用のイラスト作成、息子は動画の英語翻訳、夫は撮影の担当で、手伝ってくれた分についてお小遣いを払っています。娘は毎回忘れずに請求書を送ってくるなど、徹底していますね。家族が「小さな1つの会社」のように回っている感覚です。また、旅行のプランニングやお誕生日会の企画・運営を子どもたちにしてもらうのも1つかなと思います。祖父母のところにバイトとして子どもを派遣するのもオススメです。
子どもたち自身が計画してやってみる経験、自分の力でお金を稼ぐ経験が、結果的にアントレプレナーシップ教育になっているかもしれません。
やりたいと思ったことに挑戦する心
私は今、本当にいろいろな仕事をしています。お料理の仕事が中心ではあるのですが、ショップマニアとしてシャトレーゼやドン・キホーテで買ったものを紹介する仕事をすることもあります。こんなふうに、なにか1つを突き詰められていない自分に落ち込むこともありました。ですが、最近は「器用貧乏も個性、だからこそいろいろなことに挑戦できるんだ」と前向きに捉えられています。
やりたいと思った時が、やりどきです。生活する中でのちょっとした工夫が起業につながることもたくさんあります。私もまだまだこれからやりたいことにどんどん挑戦したいと思いますので、みなさんぜひ一緒に頑張りましょう!
パネルディスカッション
【コーディネーター】
一般社団法人Spice 代表理事 郡司日奈乃さん
【パネリスト】
株式会社PLUS-Y代表取締役 永田洋子さん
料理研究家・再現レシピ研究家 稲垣飛鳥さん
国立大学法人千葉大学 学術研究・イノベーション推進機構(IMO) 特任教授 片桐大輔さん
国立大学法人千葉大学教育学部4年 髙砂文音さん
Q.あなたが考える起業について
片桐さん
ただ「会社を作りたい」ではなくて、お客様を喜ばせたいと思った時に、自分の事業を起こすことが重要かなと。研究をしている千葉大学の立場からいくと、単に「研究成果を使って会社を作りたい」ではなくて、「この研究成果って、世の中に役に立つはず、お客さんが喜んでくれるはず、だからやってみよう」として会社をつくる、という点を一番大事にしています。
永田さん
起業とは、雇われずに働いて稼ぐこと。雇われないというのは、自己責任で、自分で意思決定すること。利益を出していかないと事業は続けられません。なので、起業とは「雇われずに働いて稼ぐこと」といつも伝えています。
稲垣さん
会社に雇われて働くのではなく、特技でお金をいただくことだと思っています。
髙砂さん
稼ぐだけでなく、やりたいと思ったこと、こういうことを達成したい!と考えて行動していくことだと思います。
Q.子どもが「稼ぐ力」を身につけるために、親ができることって?
稲垣さん
それぞれタイプが違うので、まずは子どもをよく観察することかなと思います。「この子のココが稼げるんじゃないか?」と気付いたら、アドバイスしたり、サポートしたりすることは心掛けています。
あとは、好きなこと、やりたいことをアウトプットしていくことですね。子どもだけではアウトプットが難しいときには、親がサポートしてあげることも含めて、大事にしているポイントです。自分がやったことを発信し、特技をたくさん出していく機会を作ることが今の時代は特に大切だと考えています。
髙砂さん
西千葉こども起業塾では「大人が干渉しすぎないこと」を意識していました。「これをやるためにはどうしよう?」を子どもたち自身が考えること、失敗しながら学ぶこと、とりあえずやってみることがすごく大事だなと思います。
子どもたち自身で考えた計画がうまくいかず、失敗することももちろんあります。ですが、そうやって「安心して失敗できる場」が起業塾のよさだなと感じます。これは、これから先生として子どもたちに関わる際にも意識してやっていきたいです。
Q.稼ぐ力はどうやったら身につく?
片桐さん
自分からアクティブに動く素養を若いうちから身につけることが大切だと思います。和を乱すといじめられたり、主体性を発揮できなかったりと、親や周りからの「やっちゃだめ」バイアスが昔より強い時代のように感じます。
- 子どもが一歩前に出るときに、親が暖かく見守る、送り出してあげる環境
- 子どもの周囲に親以外の安全な大人がいて、暖かかったり厳しかったりのフィードバックをもらえる環境
が必要だなと。やりすぎれば当然、大人から怒られることもあるけれど、それもひっくるめて最後は安全な大人や親から守ってもらえる「安心できる場」を大人が子どもの周りに作ってあげることが大事かなと思いますね。
永田さん
結果を評価することが多いですが、チャレンジしたプロセス、自分で決めてやってみたこと、やってみようと思ったことさえもすごいねと評価したいなと思っています。
「まだ準備が整っていないからできない」と言う子も多いですが、それでいいんです。やってみたけどできなかった、というのも1つの結果。プロセス重視で、経験して、やってみて、どうだったかを見ていくことだと感じます。
郡司さん
私は「非営利型の一般社団法人」という形で起業しました。子どもたちを笑顔にしたい、子どもや若者も市民として当たり前に参加できる社会を作りたいという思いがあります。
個人事業主、株式会社・合同会社にはそれぞれの稼ぎ方があると思うのですが、その中でも私が取り組んでいる教育や子ども若者参画は「稼ぐ」とか「収益を上げる」こととは少し相性が悪いです。私のやりたいことは社会に絶対必要なもの、公共性のあるものだと考えているので、さまざまな法人格がある中で、非営利型の一般社団法人での起業が最適解だったかなと思っています。
Q.「すき」を「しごと」にするには?
片桐さん
僕はいつも「なにになりたい?」と聞くのはやめています。「なにになりたい?」と聞くと職業という決まったものが先に来てしまってイメージが固まってしまう。そして、そこにアジャストしていくようなイメージになる。そうではなくて「なにしたい?」と聞けるような大人たち、社会にしていきたいですね。
したいことから職業を見てみると視野が広がりますよね。それがきっと「すき」を「しごと」にすることにもつながります。でも、あんまり子どものうちから「しごと」ばかりを考えてもつまらないので、子どもはまず遊ぶことがとっても大事。そこから「すき」も見つかるんじゃないかなと思います。
永田さん
「すき」には複合的な意味合いがあります。やりたいこと・得意なことだけでなくて、逆に嫌いなこと苦手なことから「じゃあやらないでおこう」を考えてみるのもいいと思うんです。少しずつやりたいことを集めて、仕事にしていくのがいいのかなと思います。
稲垣さん
子どもは純粋にすきなものがたくさんあるんじゃないかなと思います。逆に大人になると「すき」の気持ちを忘れてしまうんじゃないかと感じるんです。
大人もわくわくすること、まずは私たちが「すき」の気持ちを思い出して大事にするところから始めてみるのもオススメです。
髙砂さん
「すき」を見つけさせるのではなく、いろいろ経験する場を提供して「こんなこと楽しいな」「こんなことに挑戦してみたいな」を子どもたち自身が見つけられる場を作りたいです。そのためにもまずは、失敗を受け入れる環境作りを大人や教員の立場としてできたらいいなと思います。
子どもたちに、さまざまな大人との接点を
郡司さん
いろいろな大人との接点をもつ場所を、もっと多くの子どもたちに届けたい。そんな思いで、これからも他企業様ともコラボしつつ活動を進めていきたいです。
アントレプレナーシップ教育に関われる場所は学校・家庭・地域などさまざまです。特にその中でも「学校」で展開されることで、よりたくさんの子どもたちがアントレプレナーシップ教育に触れられると考えています。今日ご参加くださっている小学生・中学生の方で「うちの学校に来てほしい」ということがあれば、ぜひスタッフに声を掛けてください!子どもたちが大人に出会える場所を一緒に作らせてもらえたらうれしいです。
本日はありがとうございました!
「すき」を「しごと」にするためのヒントが詰まった時間
実際に「すき」を「しごと」につなげて活躍中の起業家2人の講演いただいたり、大学教育や大学生からの視点からのご意見を伺ったりと、ボリュームたっぷりで進んだ今回のイベント。
参加者とみなさまには「すき」を「しごと」にするためのヒントと出会えた時間になったのではないでしょうか。
「誰もがアントレプレナーシップ教育を受けられる未来」に向けて、Seedlings of Chibaはこれからも活動を続けていきます。次回以降のイベントにも、ぜひご参加ください!