2023年10月14日(土)10月15日(日)の2日間、「CHIBA-ZOOTUBEプロジェクト」が開催されました。千葉市動物公園を舞台に、子どもたちにとって身近な動画づくりを通じて、アントレプレナーシップを育み、課題発見力や創造性、実行力を身につけることを目的としています。こちらの記事では、イベントの様子、開催に関わったスタッフたちの想いをお伝えします!
文:猪狩はな 撮影:杵嶋宏樹
「CHIBA-ZOOTUBEプロジェクト」とは?
「CHIBA-ZOOTUBEプロジェクト」は、2022年度から千葉市動物公園とイオン環境財団の協力を得てスタートした、アントレプレナーシップを育むためのプロジェクトです。参加者は千葉市動物公園の広報担当職員になり、広報用の動画作成を行います。社会人ボランティアや学生スタッフからアドバイスを受けながら課題解決に取り組む中で、働くことや地域との関わりを学習していきます。
当日は4人がグループとなり、約1分の動画を制作。完成した動画は、千葉市動物公園から表彰を受けたあと、実際に千葉市のYouTubeチャンネルに公開されます。
千葉市動物公園・鏑木園長からの依頼とは?
千葉市動物公園の鏑木一誠園長、広報担当で今回は上司にあたる和田寛之さんから、動画制作の依頼を受けた子どもたち。今年のミッションは、「動物たちが健康で、過ごしやすい環境をつくり、動物福祉を向上させる」という動物公園の取り組みを伝える広報用の動画を制作してほしいというものでした。千葉市動物公園の想いが伝わるような動画が求められました。
「動物福祉」とは? 真剣に学ぶ子どもたち
動画の制作にあたり、まずは動物福祉について、千葉市動物公園で実際に行われている取り組みについて学びます。
動物福祉とは、簡単に言うと「動物の心と体の状態」を意味します。そして、動物福祉を向上させるためのアプローチの1つであるのが「環境エンリッチメント」です。環境エンリッチメントとは、飼育されている動物の正常行動の多様性を引き出し、動物の福祉と健康を改善するための工夫のことを言います。
千葉市動物公園では、例えば以下のような取り組みを行い、動物福祉の向上に努めています。
・ミーアキャット
アリ塚を設置することで、「手を入れて餌を掻きだす」野生本来の採食行動を促進させています。
・サル類
ロープなどを使って3次元の空間構造を作り、動物たちが好きな場所を自ら選べるようにします。
千葉市動物公園が伝えたいメッセージを表現するには?
動物福祉について学んだあとは、ロケハンの時間です。実際に動物公園のなかでどのように動物福祉の考えが取り入れられているのか、園内の様子を見て回り、動画のイメージを膨らませました。
次にロケハンした内容を踏まえ、絵コンテを作ります。動画の長さは1分以内。この短い時間のなかで、動物福祉について伝えるにはどのような構成にしたらいいのか、チームごとに相談していきます。わからないこと、疑問・質問があれば、チームをサポートする学生スタッフに質問しながら進めていきます。
絵コンテが完成したら、和田さんに提案に行きます。「絵コンテの提案に来ました」と、緊張した様子で声を掛ける子どもたち。広報のプロである和田さんから、忌憚のない意見をもらい「じゃあ、最初からやり直しだ……」と肩を落とす姿もありました。それでも諦めず、よりよい作品を仕上げたい!という思いで、何度も何度も打ち合わせを繰り返しました。
絵コンテにOKが出たら、いよいよ撮影です!
マイク片手にレポーター風に撮影するグループもあれば、まるで映画のプロローグのように動物公園の入口からの足取りを撮影するグループもあり、思い思いの方法でメッセージをかたちにしていきます。飼育スタッフの方へのインタビューも行いました。
素材が揃ったら、編集スタート
素材が一通りそろったら、編集スタート。監督、編集担当、サムネール担当など、グループごとに役割分担をしながら、1つの作品を仕上げていきます。動画制作に使用したのは「VLLO(ブロ)」というアプリです。子どもたちにとっては見慣れている動画も、自分で作ることができるのは刺激的だった様子。イベント前に操作方法を予習してきた子もいました。動画制作が初めての子でも、あっという間に操作ができるようになっていきます。
去年も参加した子はすでに操作方法を知っているので、グループの中心になって率先して操作します。「去年も参加して、おもしろかったから今年も来ました。去年できるようになったから、操作は任せて!」。そんなふうにメンバーに声をかけて、操作方法をレクチャーする姿もあり、頼もしい限り。
試行錯誤してもやり方がわからないときは、完成イメージを伝えてチームサポートスタッフと一緒に挑戦してみたり、YouTubeで動画を見て操作方法を学んだりして、子どもたちはみるみる成長していきました。「こういうものが作りたい。でもやりかたがわからない。じゃあどうする?」試行錯誤が何十回・何百回と繰り返される空間が、そこにはありました。
ナレーションが必要であれば、会場に用意された仮設スタジオに収録へ行きます。動画のBGMや効果音を選び、どのタイミングで流すか考えたり、追加で撮影に出かけたりしました。動画にグラフを入れるにはどうすればいいか悩んでいるグループでは、大人たちも巻き込んであれこれアイデアを出し合う場面もありました。
動物の生態や動物公園の施設についての内容は、その都度、和田さんに確認します。
「なかなかいいね! よくなってきたね!」そんなコメントをもらって、表情がいっきに華やぎます。厳しいアドバイスにもくじけず、何回も挑戦し続けてきたからこそ、「いいね!」が心に響くのでした。
動画提出の時間ぎりぎりまで、動画のブラッシュアップを行った子どもたち。驚いたのは、「やることがないから」と手持無沙汰にしている子がいなかったことです。誰もがみな、自分の役割を全うし、他のメンバーの手助けをし、率先して動いている姿は、きらきらと輝いていました。
ついに動画完成! 発表会
全ての工程が終わり、とうとう作品の発表会の時間がやってきました。完成した動画を再生したあと、グループごとに解説を行います。タブレットの画面で動画を編集してきた子どもたちにとって、会場の大きなスクリーンに動画が映し出されるのは緊張の瞬間です。再生が終わり、会場から拍手が起こると、子どもたちもほっとした表情。動画の解説発表をする姿も堂々としていて、誇らしげでした。
発表会のあとは、どきどきの結果発表。最優秀賞である「千葉市動物公園賞」に輝いたのは、チーム夜行性の動画「怖い動物園」でした! 「タイトルのつけ方、動画のストーリー性がすばらしかった」という講評と、記念品を受け取ったチーム夜行性のメンバーたち。
他のチームも作品の「いいところ」だけでなく、「ここはあと一歩だった」という部分も含めて、和田さんからフィードバックを受けました。「メッセージ性が弱かった」「映像、文字、音声……。すべてを組み合わせたときに、どういうふうに見えるかな? 聞こえるかな? 気を配ってみよう」静かに、真剣に、和田さんの声に耳を傾ける子どもたち。この2日間、一生懸命に取り組んだからこそ、真摯なメッセージがまっすぐ子どもたちの心に届いたようでした。
「相手目線」で考えることの大切さ
参加者は全員、イオン環境財団からのプレゼントと、学生スタッフからの修了証書を受け取りました。惜しくも賞を逃してしまった子どもたちも、「やりきった!」という笑顔! おつかれさまでした!
嬉しい、楽しい、悔しい、上手くいかない……子どもたちのなかで、いろいろな感情が動いた2日間のプログラム。ゴールは「動画を完成させること」ではなく、動画を通して「千葉市動物公園のメッセージを視聴者に伝えること」でした。
1分という短い時間のなかに、どんなメッセージを、どんなふうに入れるのか? 自分たちが表現したいことと、見ている人のニーズが合う部分はどこなのか? 相手の視点に立って動画を作るという経験は、子どもたちのこれからの見方・考え方、そして行動にもきっと良い影響をもたらすことでしょう。
子どもたちがつくった動画
子どもたちが作成した動画は、千葉市のYouTubeチャンネルで公開されています。子どもたちの挑戦の結果を、ぜひチェックしてください。
どうぶつふくしってなんだろう? / 制作チーム:ミーアキャット
千葉市動物公園の工夫 / 制作チーム:レッサーパンダ
🎖️千葉市動物公園賞受賞作品🎖️
工夫が怖い動物園 / 制作チーム:夜行性
千葉市動物公園の動物福祉向上のための環境エンリッチメント!! / 制作チーム:peace
運営に関わる方々からのメッセージ
千葉市動物公園 企画広報班主査 和田寛之さん
Seedlings of Chibaから「アントレプレナーシップ教育の一環として、千葉市動物公園を舞台とした動画制作をしたい」というお話をいただいたときは、本当に嬉しかったですね。動物園には、動物を楽しんでもらうこと、癒されてもらうことという機能とは別に、教育・調査・研究を行うという側面もあります。子どもたちの将来に関わる活動もしたい、という思いはずっとあり、理念に賛同して、一緒に運営することになりました。
今年度の活動では、千葉市動物公園が大事にしている動物福祉という切り口から、広報用の動画を作ってもらうことになりました。動物福祉は、動物たちの成育環境をなるべく自然に近いかたちに寄せて、ストレスを軽減する取り組みのことです。例えばナマケモノエリアでは、木々が茂った状態、自然に近いかたちで飼育し、お客さんには「どこにナマケモノがいるのか、探してみよう!」と提案しています。どうすれば人と動物が共存できる空間になるか考え続けています。
こういった私たちの願いを、子どもたちがどんな作品に仕上げてくれるのか。動物福祉という難しい概念を、どこまで受け止めてもらえるのか。本当に楽しみにしていたのですが、結果は想像以上でした。初めて動画を作ったとは思えない力作ばかりで、千葉市動物公園賞を受賞した作品についてはメッセージ性も申し分なかったです。千葉市動物公園でもSNS発信に力を入れているので、僕も刺激をもらえました。子どもたちに負けないくらい、これからも学びながら動物公園の魅力を発信していきたいですね。
千葉経済大学2年生 森脇 蓮さん
僕は今回「挑戦する気持ちを持ち帰れる場所を作りたい」という思いで、活動に参加しました。「心の中ではいろいろなことを考えているけれど、まわりに気を遣ってしまってなかなか発言できない」ということは、誰しもあるのかなと思います。でも、妥協せずによりよいものを作るには「思ってたけど言えなかった」人がいるのはマイナスになるんですよね。動画が完成したあとの、本人のやりがい・達成感にも大きく関わってくると思っています。その壁を乗り越えて、挑戦すること、やってみること。そんな経験を提供したいという願いがありました。
実は僕自身、司会に立候補したのは「挑戦」でした。コミュニケーションスキルにあまり自信がなく、他人と相談したり、協力したりするより、何でも自分でひとりでやったほうが気楽という思いがありました。どちらかというと殻に籠りがちな性格をしているんです。司会に自分から手を挙げて「挑戦」したことで、新しい一歩を踏み出せた。「一人ではなにもできない」「団結力って大切なんだ」ということを痛感しました。自分のなかに眠っていた新しい価値観に出会えたと感じています。
参加してくれた子どもたちは、僕以上に、未来がどこまでも広がっていて、どんな人にでもなれる存在です。今回の動画制作を通じて、なにか1つでも「挑戦できた」を持ち帰ってもらえていたら嬉しいです。
Seedlings of Chiba 事務局員 古谷 成司さん
アントレプレナーシップ教育においては、「やってみたけど、うまくいかなかった」という体験ができることが大事だと思っています。絵コンテを事前に作ってきたけど、実際に話を聞いてみたら全然違うものだった、1から作り直さないとダメだ……とがっくり肩を落とす参加者もいました。インターネットで動物福祉について調べて出てきたこと、実際に動物公園の方に話を聞き、動物の姿を見て学んだこととは全然違った、というわけですね。でも、それでいいんです。
検索すればなんでも情報が手に入るからこそ、「調べてもわからないこと」を自分の目で見て、耳で聞いて、確かめたことを自ら取りに行く姿勢が、大切な時代になっていきます。それを、人から言われるのではなく、社会人と真剣にやり取りするなかで、気づき、学んでいく場所を提供したいのです。
一生懸命考えたものにダメ出しされて、また考えて……ブラッシュアップしていく過程は、起業するしないに関わらず社会人なら絶対に体験することです。学校ではなかなか体験できない「失敗してもいいからとにかくやってみる」場として、今後も育てていきたいですね。
また、こういったイベントでは、なにかを学んでも「この場限り」になってしまいがちです。「2日間のイベントでおしまい」とならないような、継続的に関われる取り組みを企画していきたいと、考えております。
「CHIBA-ZOOTUBEプロジェクト」から得た学び
子どもたちにとって身近で、興味のある分野である「動画制作」を通じてアントレプレナーシップ精神を育む「CHIBA-ZOOTUBEプロジェクト」。子どもたちが大きくなる頃には、プレゼンでもそれぞれがつくってきた動画を流すのが当たり前の時代になっているでしょう。今回のイベントが、今後重要となる「動画制作」スキルに触れる1つのきっかけとなっていれば幸いです。そして子どもたちの「自らの意志をもって自分の人生を切り拓く力」の育成に向け、「CHIBA-ZOOTUBEプロジェクト」は今後も進化を続けていきます。来年度の活動もお楽しみに!
主催:ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba
協力:千葉市動物公園
参加大学:千葉経済大学、千葉大学
参加企業・団体:イオン環境財団、303BOOKS、プロシードジャパン
自治体:千葉市
その他多くの個人のボランティア参加がありました。