ちばアントレプレナーシップ教育シンポジウム2021
VUCA時代を生きる子どもにワタシができること


VUCA時代を生き抜く子どもたちに対して、私たちが何ができるのかを考えるシンポジウムを開催いたしました!

執筆者:宮崎真弥香

VUCA時代とは

VUCAとは、Volatility (変動性)・Uncertainty (不確実)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性) の4つの単語の頭文字からできた未来が予測困難な時代のことを表します。

既存の価値観やビジネスモデルなどが通用しない時代を生きていく子どもたちに、必要な力は何なのか。様々な立場の方にご登壇いただき、語り合っていただきました。

『社会を生き抜く人間』の 育成法

講師:株式会社ミクシィ 代表取締役社長 木村 弘毅 氏

アントレプレナーシップとは、一言で言うと「いいだしっぺ」です。子ども1人1人個性が違うので、この教育方法が合っているというものはありませんが、その「いいだしっぺ」にどうしたらなれると皆さんは思いますか?

株式会社ミクシィが追求しているものとは

株式会社ミクシィは、コミュニケーションを大切にしています。

私たちは、人との繋がりの機会を与えるためのツールである、ソーシャルネットワーキングサービス「ミクシィ」の運用や、友だちと一緒にワイワイ盛り上がれるスマートフォンネイティブゲーム「モンスターストライク」(以下モンスト)の提供、「PIST6 Championship(ピストシックス チャンピオンシップ)」という自転車トラックトーナメントの運営を主に行っています。スポーツは、多くの仲間・家族と一緒に見て一喜一憂する機会を与えてくれます。

木村 弘毅 氏の生い立ち

これからの時代、子育てで大切なことについてお伝えします。それは子どもの個性や意思を尊重してあげることです。

個性や意思を尊重すべき理由は大きく2つあります。1つ目は、興味や関心のあることであれば夢中になれるからです。また2つ目は、発言と行動に責任を持つとなりたい自分になれるからです。

株式会社ミクシィがコミュニケーションを追求するようになった経緯は、私の子ども時代に繋がっています。今から私の子ども時代を振り返りたいと思います。

小学生時代

私は、小学生時代、好奇心旺盛でやりたいことがいっぱいありました。友だちがやっている習い事を全部やりたい!そんな思いから、毎日習い事に通い、加えて塾にも行きました。英会話、習字、絵画などやりたいことを全部やらしてもらえたんです。この経験から、「やりたいことがあるならやってみよう!」という興味のあることに挑戦するマインドが育ち、友だちと一緒なら何でも面白いことに気づきました。

中学・高校時代

中学時代はマルチプレイのゲームにハマり、高校時代は仲良しの友だちと夜通しゲームに没頭しました。本当に遊んでばかりの子どもでした。この中学・高校時代が、将来モンストを作るきっかけになったと思っています。「どんなことでも興味・関心があればやってみたら」という考えの親でした。しかし、唯一反対されたことがあります。それは高校卒業後の進路です。私は最初、ゲームの専門学校に行こうとしたのですが、「ゲームの専門学校は流しがきかないと思うから、大学進学がいいのではないか」と言われ、理系の大学への進学を決心しました。ゲームを沢山していたとは言いましたが、もともと理系の大学に行くことを視野に入れていたため、家庭教師や予備校に通い、勉強はそれなりにしていました。

大学時代

ひたすら遊び、バイトをし、ゲームの企画書を作成しているような大学生でした。全く勉強しなくなってしまいました。友だちとスポーツをやったり、夜通しゲームやファミレスで夜通しおしゃべりしたり、大学生のよくある光景ではありますが、そういったことが非常に楽しいなと感じました。

大学生活を送っていく中で、ゲーム以外にも楽しいことは沢山あるのではないかと思い始めました。その楽しさの根底にある共通点を考えたときに、コミュニケーションなのではないかと気づいたんです。大学生活を通して、やりたいことが明確になりました。

子育てで大切にしていること

私が子育てで大切にしていることは、”人とは違う関心ごとでも、子どもが興味を持っていることを大切にする”ということです。また、”選ばせる”ということも大切にしています。例えば、今日何食べたい?どんな服を着たい?といったように、意思決定を積極的に子どもにさせています。意思決定の積み重ねこそが、「いいだしっぺ」に繋がり、自分で責任を持って行動ができる大人になると考えています。

子どもが『稼ぐ力』を身に付けるために親ができること

起業家教育は、起業する人が増えることを目的にするだけではありません。
VUCA時代において、コミュニケーション能力や創造性などみんなが必要な能力を養うものだという共通認識を持ちながら、今回ディスカッションを行いました。

①パネリスト
株式会社ブルーパドル代表 佐藤 ねじ 氏
中小企業庁経営支援部 創業・新事業促進課課長補佐 宮本 祐輔 氏
千葉大学 教育学部教授 藤川 大祐 氏(Seedlings of Chiba 顧問)

② コーディネーター
株式会社プロシードジャパン代表取締役社長 吉川 亮 氏(Seedlings of Chiba 事務局長)

まず話題提供として、宮本さんからお話いただけますか。

吉川

中小企業庁 創業・新事業促進課の立場から、日本を取り巻く創業の環境がどのようなものなのか、またその施策についてお話をさせていただきます。

日本は諸外国と比べて開業率がずっと低いです。では、なぜ低いのかと言いますと、理由の1つとして創業に対する無関心さが挙げられます。日本は諸外国と比べ、創業家に対するリスペクトや、そもそも創業家と関わる機会が少ないんです。

では次に、実際に日本で創業しようとした時に抱える課題についてお話します。課題は大きくわけて2つあります。一つは、資金不足、もう一つは知識・ノウハウ・技術不足です。

それを踏まえて中小企業庁 は、高校生を対象にした起業家マインドを育成するプログラムやその支援等を行っている。起業家マインドは、創業しない人にとってもこれからの時代重要なものになっていくと思われます。

宮本

佐藤さんからご家庭の取り組みなどについて、お話いただけないでしょうか。

吉川

息子と一緒に行った、小1起業家についてお話します。

息子がポケモンカードにハマっており、当時のおこづかいの額、月100円では足りないと悩んでいたのが、小1起業家という遊びが始まったきっかけです。
     
そんな悩んでいた息子に100円払ってもらい、「おこづかい講座」を開きました。ここでお金を払うことで、投資消費浪費の概念についてもお話しをしていました。実際、払うかどうかは3日ぐらい悩んでましたが…。(笑)

おこづかい講座では、「どうしたら小1がお金を稼げるのか」について一緒に考えていきました。「ターゲットのこまりごと」×「小1ができること」の組み合わせで考え、結果的に「親をターゲットに、コーヒー屋を開く」ということを行いました。

コーヒー屋を開くにあたり、息子はお年玉貯金1000円と親から900円の借り入れをしました。そして1900円のコーヒー豆を買い、練習やメニュー作成を行い、家の中でコーヒー屋を開業しました。値段設定も子どもながらに一生懸命考えていましたね。また、売上に関しては出納表を作成し、記載をしていきました。

最初は、ポケモンカードのために行っていたものの、非常に楽しんでこの取り組みを行っていました。世界中のコーヒー豆を仕入れてそれを提供する!などのビジョンも掲げていて、最終的には借金も返済し、黒字になりました。でも、コロナ禍になって廃業してしまったんですよね…。(笑)

佐藤

そうなんですね。(笑) 需要が無くなったんですか?

吉川

はい。(笑) コロナ禍で在宅ワークが増え、自分たちでコーヒーを入れたくなってしまって…。

コーヒー屋は廃業したものの、今でもビジネスに興味を持っていて、次はサラダの新しいビジネスを、息子は考えています。子どもって、興味があれば難しい用語もどんどん吸収していくので、割と常日頃使用しているビジネス用語をそのまま教えています。

佐藤

藤川先生からも、中学生や高校生の現状についてお話いただけますでしょうか。

吉川

現状としてお伝えすると、起業家教育については学校でほとんど実施されていないですね。キャリア教育というのはここ20年ほど行っています。中学で職場体験を行うというのがよくある取り組みです。また、千葉県では小学校でも職場体験を行っています。しかし、最近ですとコロナ禍で実施が難しくなっています。

今後はキャリア教育だけでなく、起業家教育に繋がるコミュニケーション能力自己理解プランニングなど汎用的な能力をつけるということが必要になっていくと思います。

藤川

では、こういった状況の中で、私たちは何ができるのかという観点について佐藤さんはどうお考えでしょうか?

吉川

そうですね、子どもの興味を持っているものに、ビジネスを少し取り入れると面白いのではないかと思います。

今息子は小4なんですけど、フォートナイトやマインクラフトというゲームに非常にハマっていてずっと遊んでいます。そこで時間配分というのに着目し、PDCAサイクル講座を最近開き、時間管理について教えました。自分の時間の使い方を書くことで、いかに無駄な時間を過ごしているかが分かるんですね。ぼーっとする時間が1時間ぐらいあったりして、息子はやりたいことがあるのに上手く回っていないんですね。そういったことが目に見えると、スケジューリングをしようとなるんですね。だから、最近は時間管理を自ら行ってゲームを楽しんでます。

佐藤

子どもに対して仕事ベースでお話して、それを子どもが理解して実行できてるのがすごいですね。何かコツなどあるんですか?

吉川

子どもの性格にもよると思います。ですので、その子どもによって伝え方というのは変わってくるのではないでしょうか。息子の場合も、私が話す用語について理解できていないときはありますよ。

あとは、子どもは光るものが好きなんですよ。ゲーム機やiPadとか…。だから、iPadを使用して時間管理を行うなど、子どもが興味を持つ環境づくりをすると楽しみながらできると思います。

佐藤

なるほど。ゲーム感覚で行うことが大事なことの1つなんですね。藤川先生はこういった環境づくりについてどう思いますか?

吉川

まさに起業家教育というのは、ゲームに関係あるんです。私はゲームでないものをゲーム的に捉えるということを大事にしています。私たちが仕事や子どもの世話など社会の中でやっていることを、ゲーム的に捉えてチャレンジしていくという風に考えたら、やりやすいですよね。様々な課題がある中で、自分でアプローチをして解決していくということに関してゲーム的に捉えることができるだろう、そう考えています。

私たちが行っている西千葉子ども起業塾に関しても、ゲーム的にデザインされています。起業塾教育というのは、子どもと接点を持ちながら、ゲームづくりをするなどの力を身につけるのがゴールではないのかと思います。

藤川

ゲームの世界って自分が主人公になって、様々な選択をして進めていきますもんね。そう考えると現実はゲームに似ていますね。

宮本さんには、実際に起業家マインドに関するプログラムを行って、子どもたちがどう変わったのかについてお伺いしたいです。

吉川

プログラムを行ったことで、「やりたいことを見つけることができた。」、「起業について考えるようになった。」とアンケートで答えている子どもが多かったです。やはり意識の変化というのは、きっかけがあってこそなのだと思います。

宮本

起業家教育というのは、会社を作ってビジネスを起こす訓練では無くて、ビジネス的なリテラシーを得るものだと考えています。

商売をする上で、誰か困っているのかを考え創造する力やマーケティング力必要であると思います。そういった力を子どものうちから身につけてほしいです。

全ての学校がそういった取り組みを行うというのは時間がかかると思うので、習い事のように、外部で起業家精神を学べる機会が増えればいいなと思います。

佐藤

佐藤さんのお話を聞いて、子どものころから、消費や投資などビジネス用語を知るというのは重要だなと思いました。子どものうちからビジネスについて学び、考え方の種を植え付けておけば、経験がより充実したものになるのではないでしょうか。

また藤川先生のゲーム的にデザインするというお話も参考になりました。創業率が増えるというのも大事ですが、世の中で生きていく上で必要な力を総合的に身につけていくという観点でも、起業家精神は大事なんだなと思います。

宮本

自己選択が大事ということやPDCAサイクルという話もでてきたと思いますが、この2つは繋げるべきだと思います。自分で決めるということを子どもたちにどんどん行ってもらって、その結果を見つめなおすまでが自己選択なのではないかと話を聞いて感じました。

藤川

神谷市長よりメッセージ

千葉市は子どものアントレプレナーシップ教育を推進しており、シードリングスでは、仕事ニーズを具体化をして社会を生きていく力をもつ子どもたちを育てていきたい、そう思って日々活動をしています。

VUCA時代においては、テクノロジーの理解や情報を集めていく能力、自ら考える力が必要であると思います。今回のシンポジウムを通じて、子どもたちのアントレプレナーシップ教育について自分に何ができるのか、できることはないのか、そういったことを考える機会になったのではないでしょうか。

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