
クリスマスシーズンの千葉公園芝庭を舞台に、高校生が2つの「会社」に分かれて起業を体験! 住む地域も学校も違う高校生たちが集まり、自由な発想をビジネスモデルに落とし込むプロセスを経験しました。準備期間のこと、そして事業発表当日の高校生たちの様子をレポートします!
執筆者:片倉まゆ 撮影:株式会社2L
全8回のプログラムで、B to C(business to consumer)のビジネスを学ぶ
高校生ビジネスプログラム「千葉公園起業チャレンジ2024」はSeedlings of Chibaが中心となる教育プロジェクトです。一般社団法人 Spiceが、企画やプログラムの開発を担います。千葉公園内にある「YohaSの寺子屋」をプロデュースする拓匠開発が場所を提供し、ビジネス面のアドバイス・サポートなどには、SciEmoも携わります。
2024年9月よりスタートしたこのプログラムには、全8回のワークショップが設けられています。ミッションの達成に向けてチームで協力すること、課題を発見し、経済の仕組みや、社会との繋がりを学ぶことなどが目的とされています。
今回のミッション
「千葉公園の一区画を使って、お客さんに思わず欲しいと思わせるものを提供し、利益を出せるようなビジネスを実施せよ!」
1チームの予算を15万円とし、それぞれが自由にビジネスを考えていきます。
当初のスケジュール
日時 | 内容 |
---|---|
9⽉29⽇(⽇) | 2つの「会社」に、ミッションが発表される。 千葉公園内で、フィールドワークを実施。 |
10⽉13⽇(⽇) | 各グループで事業の目標を掲げ、 実現に向けたアイデアの種を出し合う。 |
10⽉20⽇(⽇) | さらに作戦会議。具体的な案を出しながら、 アイデアを練り上げていく。 |
11⽉3⽇(⽇) | 事業の目標、アイデアを発表。 グループ同士で意見交換をする。 |
11⽉10⽇(⽇) | 事業を行うために必要な物をピックアップ。 調達を開始する。 |
12⽉1⽇(⽇) | 本番に向けたリハーサル。 改善点を見つけて、最終調整をする。 |
12⽉15⽇(⽇) | 本番当⽇! |
12⽉22⽇(日) | 活動全体を振り返って、新しい発見や、 反省点など、気づいたことを話し合う。 |
千葉公園は、1946年に開園した歴史ある公園。気軽にスポーツを楽しめる広大な敷地と、四季折々の自然から、地域の人に愛されてきました。近年、施設の老朽化などが問題視されるようになり、千葉市は2019年8月に「千葉公園再整備マスタープラン」を策定。千葉競輪場跡地に屋内自転車競技場を創設したり、2023年4月に「YohaSアリーナ〜本能に、感動を。~(千葉公園総合体育館)」を整備するなど、開発を進めてきました。そして、2024年4月に、賑わいエリア(芝庭)がグランドオープン。ゆとりのあるオープンスペースでピクニックする人や、自然を感じながらのんびり散歩する人などを見るようになりました。
開催当日までには参加者同士で様々な話し合いが行われた他、拓匠開発、SciEmoからのアドバイスを受けながら、事業プランを練っていきました。




キッチンカーとタイアップした「ドーナツ屋さん」

1つ目の「会社」は「ドーナツ屋さん」の経営をすることに。実際にドーナツをキッチンカーで販売している「わっか屋」と共同で、高校生たちがオリジナルドーナツを開発しました。見ているだけで、ワクワクしてくるドーナツは、ホリデーシーズンにピッタリ♪ 本番を迎えるまでに、どんな経緯があったのでしょうか?
試行錯誤して生まれたクリスマスドーナツ

一番のこだわりは、ドーナツのデザイン! クリスマスを意識して、ハートをさかさまに並べてツリーの形にしました。デザインが決まるまで、クラウドデザインツールなどを使って、アイデアをどんどんふくらませていきました。小さなドーナツが2つにわかれているので、家族や友だちとシェアしやすいところもポイントです。

12月のイベントということで、「外で食べたくなる温かいもの」というざっくりとしたイメージがありました。最初は肉まんや豚汁の案も出ていましたが、より季節感を出しやすいもの、シェアして食べやすいもの…などと思案して、ドーナツに行き着いたそうです。キッチンカーのわっか屋さんに相談したり、価格の交渉をしたりするところも、自分たちで担当しました。初めて事業にチャレンジしたので、お店のオープンまでに、たくさんの段階を踏むことに驚いたそう…! 見積もりや、備品の用意にとりわけ時間がかかり、本番を迎える2週間前ごろに、いっきにアイデアが形になったといいます。
和のテイストにこだわった「こたつカフェ」

2つ目の「会社」は、「YohaSの寺子屋」の場所を利用して「こたつカフェ」を運営することに! 拓匠開発がプロデュースする「YohaSの寺子屋」は、日本の伝統文化の香りがする畳張りの空間。そこで、和の雰囲気にマッチするこたつを導入し、お客様がゆっくりと飲食したり、ボードゲームで遊んだりできる「場所貸し」のビジネスモデルを考えました。
斬新なアイデアが飛び交ったこたつチーム


「和風のこたつカフェ」に落ち着くまで、「ココアやコーヒーを提供する」「人気のインフルエンサーを呼ぶ」など、チーム内からはおもしろい発想がいくつも出たそうです。経営面のことなどを、社会人
メンターの方に助言してもらいながら、「和風なら、飲み物はお茶やおしるこ」「お菓子は駄菓子」などと、少しずつ方向性を定めていったといいます。

「限られた空間の中に、4台のこたつが設置でき、1台のこたつに最大4人が入れて…」など、細かくお客様の数や滞在時間などを見積もり、料金を設定したそう。とくにファミリー層に入ってもらいやすいようにと「おとな 800円、3歳〜小学生 500円、3歳未満は無料」と価格帯を分ける工夫も取り入れました。12月の半ばといえば、例年とても気温が低くなります。「こたつに入って暖を取りたい人は、たくさんいるはずだ」と、チームが想いをひとつにして、準備に励みました。会計、装飾、商品の調達などと役割分担をして、メンバーそれぞれが、個の力を発揮する準備期間になったそうです。
いよいよ当日! 2つの「会社」の様子は?


クリスマスマーケット当日の朝は大忙し。商品の陳列から店舗の装飾まで、自分たちの手で行います。ドーナツ屋さんは、メインの看板に、雪を連想するような白いモールを貼り付けました。ドーナツを並べる台には、ベロア調の赤い布をオン。売り子さんがサンタクロースの帽子をかぶれば、準備万端! 「ここに飾りをつけた方がいいかな?」「もう少し前に出そう」などと、積極的に意見を出し合いながら、開店準備を進めていきます。


こたつカフェでは、施設内の準備に時間がかかっていました。こたつの設置と、ドリンクのウォーマー準備に、なんと1時間かかることが判明…! その間にお客様が来たらどうしようと焦りながらも、みんなで協力して装飾を施します。天井から和紙のかざりを垂らすアイデアも、高校生たちが考えたもの。のどやかな和室に色彩がプラスされ、どんどん華やかな空間へと変化していきます。


外のメニュー表も、和テイストを意識。懐かしみのあるレトロ調に仕上げました。
ぽかぽか陽気に、たくさんの人が集まりました!

11時からスタートしたクリスマスマーケット。午前中から、たくさんの人が公園を訪れました。「ドーナツ屋さん」は、オープン当初から大繁盛。なんと、1時間で30個以上のドーナツを売ることができました。とくにファミリー層が多かった印象です。

(ドーナツを買った人の声)
高校生が売っているということで、珍しいなと思って足を止めました。子どもが喜ぶようなかわいいデザインでありがたいですし、味もおいしいです。

予想外に気温が高く、客足が伸びない「こたつカフェ」…! 高校生たちは、積極的に呼び込みをします。空いた時間を使って公園内をめぐり、どんな年齢層の人が多いのか、またどんな店舗が人気なのかを調査するメンバーも。チーム内でコミュニケーションを取りながら、作戦を練っていました。

(こたつカフェに入った人の声)
息子(3歳)は、今日初めてこたつに入ったんです! 貴重な経験ができて、すごく嬉しいです。裸足でも怪我の心配がなく過ごせる空間で、ママとしても安心です。
事業の成果は、いかに…!?

午前中はとても売れ行きがよかった「ドーナツ屋さん」ですが、お昼頃から客足が遠のきます。声かけの言葉を変えてみるなど、小さな工夫を積み重ねて、お客様を呼び込むことに。「ドーナツいかがですか?」など、シンプルな言葉選びだと、反応をもらいやすかったとか。「ドーナツを売っている」ということが端的に伝わることが大事なようです。
中学生〜高校生くらいをメインターゲットにしていたそうですが、実際は多かったお客さんは、昼間はファミリー(子ども)で、夜はカップル。商品が1種類ということもあり、客層をしぼった方がよいのかな?という声も上がります。
そして、夜にカップル向けの作戦を実行! 2人でシェアしやすいように、1本で600円のところを2本で1,000円に値下げしてみました。すると、ドーナツは見事に完売! クリスマスマーケット終了の20時までに、ギリギリ間に合うことができました。
「こたつカフェ」は、気温が下がらず苦戦する中、その場で生まれたアイデアを柔軟に事業に取り入れていました。


お昼を過ぎたころ、売り上げ目標を達成するのが難しいと感じたメンバーたちは、社会人メンターの方に相談し、価格を見直すことに。当初は800円(30分)だった料金を、500円(30分)に下げ、駄菓子のつかみどりも始めます!
「このままでは赤字かも…」と諦めムードが漂う中、メンバーのひとりから口をついて出たのは「人を笑顔にしたい」という言葉でした。そこから、チームの雰囲気がガラリと変わり、「1人でも多くの人を楽しませよう」と、気持ちがひとつにまとまりました。

その後も、忘れ物が届けられてしまったり(インフォメーションセンターと間違えられた?)、つかみどりの駄菓子が底をついたりと、思いがけないハプニングはありましたが、閉店まで心折れずに、真剣に事業と向き合うことができました。

参加した高校生たちの声
「ドーナツ屋さんチーム」
今回このプロジェクトに参加して、協力することの大切さを知りました。自分1人でできることには限界があるんだなと実感したのです。
自分は元々、人とコミュニケーションをとることが苦手でした。でも、1つの事業を4人でつくり上げるという経験をしてみると、否が応にも役割が生まれ、それぞれが力を発揮する場ができていました。偶然に集まったメンバーなのに、自分の特性や強みを生かして働けていることは、新しい発見でした。
僕は、商業高校に通っています。将来、柔道整復師になるために、経営のことも授業で学んできました。今回プログラムに参加してみて、世の中には、実践してみないとわからないことがたくさんあるんだな…と感じています。ドーナツ屋さんの運営で培ったことが、自分のビジネスアイデアの源になるような気がして嬉しいです。貴重な経験をさせていただきありがとうございました!
「こたつカフェチーム」
こたつカフェは、事業としては失敗に終わりました…。でも、今回のプロジェクトでは、社会人メンターの方にたくさんアドバイスをいただいたり、お客様のリアルな声を聞いたりして、高校生の自分が社会と繋がっていることを強く感じられ、大きな実りがあったなと思います。
私は、地元が千葉の内房で、海沿いの方。田舎と言われることも多いですが、今回学んだことを生かして、地元の魅力を知ってもらえるような活動を始めてみたいなと思います。
こたつカフェチームで、反省点があるとすれば、シュミレーションが足りなかったこと。概算で「ぜったいにたくさんの人に来てもらえる!」と前向きだったのですが、もっと下調べをしたり、似たような事業をしているカフェを訪れていればよかった…と思います。
今後のテーマは情報収集です。アンテナを張って、いろいろな事業を見てみたいです。また、今回、チームメイトが「隣のスターバックスにたくさんお客様が流れている」ということを発見したので、次回はスターバックスさんと限定のコラボメニューを販売してみたいなと思っています!
運営に関わる方々からのメッセージ
株式会社 SciEmo・相川 晴康さん(ビジネスプロデューサー)

このワークショップが始まった当初から、おもに高校生たちのサポート役として携わっています。僕は、「こたつカフェチーム」をメインに事業づくりに関わらせてもらいました。プログラムに参加する高校生と対面した時は、やる気のある子たちばかりで頼もしく思いましたね。それでも、ほぼ初対面の子たちが、チームで新しい事業を動かすわけですから、アイデアがまとまりきるまで、2ヶ月間くらいかかりました。各チームの予算は15万円。その中で、こたつカフェなら、こたつのリース代や食品の仕入れ代などを賄います。高校生たちの自由な発想は素晴らしく、目を見張る瞬間がたくさんあって、基本的には、彼らの自主性に任せ、僕は経営の現実的な部分をアドバイスさせてもらいました。プログラムが進むにつれて、自然に役割分担ができてきたり、グループラインを作ってコミュニケーションをとっていたりと、チーム内にはっきりと絆が生まれていたことが嬉しかったです。テスト期間や修学旅行など、学校の大事な行事もたくさんある中で、本番前日から、寺子屋に来て準備をしてくれた子もいて、そんなひたむきな姿勢に、社会人として大きな刺激をもらいました。
株式会社 拓匠開発・坪田 英里香さん(寺子屋 館長)

私は、おもに「ドーナツ屋さんチーム」のサポートをさせてもらいました。ビジネスをゼロから作るというミッション。もちろん高校生には、わからないことだらけです。ディスカッションを重ねながら事業案を作り上げていく彼らに寄り添いながら、適切なアシストができるように努めてきました。アイデア出しの期間は自由なムードでしたが、プロジェクトが具体化する最後の1ヶ月間は、みんなの意識がクリスマスマーケットというイベントに集中していることを肌で感じました。それぞれが、自分の役割をしっかり把握して主体的に動けていたと思います。今回、ドーナツ屋さんの高校生たちは、キッチンカーの会社様ともやり取りして、予算のことも考えながら事業を実現していきました。投げ出さずに最後までやり遂げたことは、参加者みんなの誇りになると思います。複数人が集まって創造的なアイデアを発想する時間って、とても有意義だと思います。ですが、意外と高校生にとっては、難しいことなのだと実感しました。今後、このプロジェクトを続けるとしたら、高校生ならではのポイント・売りをアピールできるようなアイデアを、さらに引き出せるように、おとながアクションを起こせたらいいなと思っています。