「これからの時代を生き抜く力を育てるには?」
「今の日本でイノベーションを起こすにはどうしたらいいの?」
目まぐるしく変化していく現代社会を前にして、そんなふうにお考えの方も多いのではないでしょうか。不確実な時代を生きていく子どもたちには「新しいものを生み出し形にする力」が必要とされる一方、自由にアイデアを考え出せる土壌がうまく育っていない現状があります。
そんななかで注目を集めているのが、誰もが気軽にイノベーションの種を見つけられる取り組み——IoTを活用したアイデア発想「ifLinkオオギリ」です。
この記事では、2024年11月17日千葉市役所にて開催された「ifLinkオオギリでアイデア発想」ワークショップの様子をレポートします!
今回のイベントは「ifLinkオープンコミュニティ」との「共創」により、子どもたちの起業家精神を育むアントレプレナーシップ教育の一環として実施されたものです。新しいアイデア発想のカタチに興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
執筆者:猪狩はな 撮影:株式会社2L
~オープンな交流から誰もが簡単にIoTを使える世界の実現を~
ifLinkオープンコミュニティとは、さまざまな企業・団体に所属する人々が、垣根を超えてオープンに交流しながら「誰もが簡単にIoTを使える世界」を実現するためのコミュニティです。
オープンコミュニティには現在180以上の企業や学校が参加し、知見を共有しつつIoTの可能性を広げています。アイデア発想から試作、実用化までをワンストップで実現できる点が最大の強みです。
ifLinkオープンコミュニティ|誰もがカンタンにIoTを使える世界を目指して
「ifLinkアイデア発想法」とは?
どこで・誰が・どんな困りごとがあるか、お題を決めて「IF(もし)〜したら」「THEN(そうしたら)〜する」を組み合わせた解決方法を考える発想法です。
▼考えてみよう!
IF:(もし)〜したら
「突然、雨が降ったらどうする?」
THEN:(そうしたら)〜する
回答例
「友達の傘に入れてもらう」
「傘を届けてもらう」
「ランドセルを頭の上にのせる」
この条件設定を活用することで、日常生活の「もしも」から新しいアイデアを生み出せます。
▼例
- もしイスに座ったら→好きな音楽が流れる
- もし朝になったら→目覚まし時計が鳴る
- もしドアに近づいたら→自動でドアが開く
イノベーションってなに?どうやったら起こせる?
イノベーションとは、これまでにない新しいサービスや製品を生み出し、社会に広めることです。日本の歴史を振り返ると、1958年に誕生した即席ラーメン、1990年に開発された二次元コードなど、私たちの生活を一変させる発明が数多くありました。
しかし近年、日本企業の存在感は世界市場で低下傾向にあります。1989年には世界の時価総額トップ20に14社の日本企業がランクインしていましたが、2023年には0社まで低迷しています。新たなイノベーションを起こすことが、日本の成長における重要な課題だといえるでしょう。
では、どのようにイノベーションを起こせばよいのでしょうか。実は「ifLinkオオギリ」で取り組む「IF-THEN」の発想は、身近な困りごとから新しいアイデア——イノベーションの種を生み出すワークです。シンプルですが、そこには大きな可能性が秘められています。なぜなら、イノベーションは必ずしも大きな技術革新から生まれるわけではないからです。「もし〜だったら」という素直な発想は、未来のイノベーションにつながるかもしれません。
「ifLinkオオギリ」ワークショップの流れ
どのように「IF-THEN」発想を出していくのか、ここからは「ifLinkオオギリ」ワークショップの流れをご紹介していきます。
▼準備するもの
- ワークシート
- ふせん
- 赤い丸シール
- ペン
▼設定を選ぶ
ワークショップでは、ワークシートに沿ってアイデア出しをします。まずはどのシーンにおけるアイデアを出すのかを決め、アイコンに丸をつけましょう。
- シーン:どこで?(=家庭/学校)
- ペルソナ:誰のための?(=私たちのための)
▼「困りごと」「嬉しいこと」を出す
設定が決まったら、選んだシーンにおける「困りごと」「嬉しいこと」を考えます!
1枚のふせんにアイデアを1つずつ書き込んで、ワークシートに貼りつけていきます。
(例)家庭での困りごと:お父さんのいびきがうるさい
▼解決・実現アイデアを考える
困りごと・嬉しいことの解決・実現を「IF-THEN」で考えます。
(例)もしお父さんがいびきをかいたら→ベッドが揺れて、お父さんが目を覚ます!
▼アイデアを1つ選び、名前をつける
たくさん出したアイデアのなかから1つを選び、名前をつけます。
(例)「お父さん泣かせ!いびき改善ブルブルベッド」
▼発表タイム
有志の人に前に出てきてもらい、アイデアを発表してもらいます!
子どもたちのアイデア発想の例
ワークショップのなかでとくに重要なのは「発表タイム」です。1人ができることには限りがありますが、人のアイデアを聞いたり、話したりすることで、もっとできることが広がるからです。アイデアの成長は、「対話の時間」から生まれます。
ワークショップで発表してもらったアイデアのなかから、2つの例をご紹介します!
「WOW! イスに座ったらすぐに好きな食べ物」
家で食事をするとき、イスに座るだけで好きな料理が目の前に現れる仕組みです。シンプルながらも、誰もが「あったらいいな」と思わず笑顔になる提案ですね。
Q:どうやって好きな料理がわかるのですか?
A:ロボットが作ってくれるので、ロボットに言えば作ってくれます。
Q:料理はどれくらいの時間でできるのですか?
A:最初は1秒で作れるようにするつもりだったけれど、実現可能性を考えて2〜3分くらいにします!
参加者から次々と質問や提案が出されたことで、発案者の考えもどんどん発展していきました。
「早い、簡単、かわいい! 座るだけヘアセット」
こちらは、朝の準備やお風呂上がりの髪の乾燥に時間がかかるという日常の悩みから生まれたアイデアです。鏡の前に設置されたイスに座るだけで、ロボットが髪を乾かしながらヘアアレンジまでしてくれます。
とくに盛り上がったのは、「新しいヘアアレンジはどうする?」という質問です。
「タブレットでイラストを描いて伝えます」
「じゃあ、イラストが書けなかったら?」
「言葉で説明できるようにしたらいいんじゃないでしょうか?」
「じゃあ、言葉で説明するのが難しいヘアスタイルだったらどうしますか?」
会場のみなさんを巻き込んだ「じゃあこういうときはどうする?」の議論が巻き起こり、アイデアの具体性が一気に高まりました。
身近な課題から生まれるイノベーション
質問や提案を通じて、アイデアはブロックを積み重ねるように進化していきます。ファシリテーターの丸森さんは、みんなでアイデアを膨らませていく流れを「乗っかり」と表現した上で以下のように語りました。
「こうして乗っかって質問をしていくことで、アイデアがより具体的になり、実現性が高まっていくんです。一人のアイデアが、対話を通じてより魅力的なものへと進化していきましたね!」
イノベーションを起こすのは天才だけではありません。むしろ、誰もが考えられる身近なアイデアだからこそ、実現できる可能性は高まるのです。
未来を変える、小さな「もしも」の力
今回のイベントは、「ifLinkオオギリ」を通じ、誰もが身近な課題から新しい解決策を考えられる場となりました。子どもたちも保護者の方も真剣にアイデアを出し、自由に発想を広げられる、温かな雰囲気が印象的でした。
「不正解はない」「出されたアイデアはすべてが価値ある」と肯定してもらえる空間だからこそ、ユニークな提案が飛び出したのかもしれません。実際に子どもたちからも、「ふだんアイデアを思いつくのは得意というわけではないけれど、ワークをしたことでいつも思っていることが沸き上がってきて、たくさんのアイデアが出せた」との声が寄せられました。
「自ら課題を見つけ、解決策を考える」プロセスは、実は普段の生活のなかにたくさん眠っています。大切なのは、その課題を自分で見つけ出す力です。「Seedlings of Chiba」と「ifLinkオープンコミュニティ」は今後も協力して「未来を創る力」を育む活動を続けていきます!
企画者からコメントをいただきました!
一般社団法人ifLink オープンコミュニティ
コミュニティエバンジェリスト・林田章裕さん
実は、私には野望があるんです。それは、千葉から日本の教育をアップデートすること。そのためには仲間が必要です。自分一人ができることは限られています。ですが、仲間と一緒なら、もっと大きなことができる。一緒に頑張ってくれる仲間を増やしながら、千葉から新しい教育の形を広げていきたいのです。私たちの活動の1つである、千葉市との「ifLinkオオギリ」イベントは今回で2回目の開催でした。前回のイベントでは、参加した小中学生の81%が「日常生活で困ることや嬉しくなることを見つけて解決してみたい」と回答していて、手応えを感じています。
今後は千葉市の学校でもワークショップを実施できるよう調整中です。メンバーを増やしたり、IoTデバイスをもっと安く簡単に作れる仕組みを検討したりと、新しい取り組みも始めました。こうして実績を積み重ねることで、野望達成に向けた「次のステージ」に一歩一歩進んでいけると確信しています!
一般社団法人ifLink オープンコミュニティ
丸森宏樹さん
ifLinkコミュニティの特長は、アイデア出しから試作、実用化までをサポートできる体制にあります。充実したツールに加え、それを効果的に活用できる人材がそろっていたことで、効率的なブラッシュアップが実現しました。今日のワークショップでも、子どもたちや保護者のみなさんといっしょにいいアウトプットの場がつくれたと感じています。
さらに私たちは今、「ifLinkオオギリ」を使った考え方を学んで、行動して、成果を出した人を認定する新しい制度を作っています。認定制度があることで、「ifLink」の活用が学生や社会人のモチベーションになり、行動してくれる人が増えてほしいです。将来的には、この取り組みがオープンイノベーション推進の仕組みの一つとなることを目指しています。
(株)プロシードジャパン
代表取締役社長・吉川 亮さん
アントレプレナーシップは、日本語では「起業家精神」と訳されることが多い言葉です。しかし、私たちが目指しているのは必ずしも「起業家を育てる」ことだけではありません。これからの不確実な時代を生きていく子どもたちに必要な、新しいものを生み出し、形にする力を育むことを重要視しています。
学校の勉強は、授業で習ったことをテストで答える形が多いですよね。でも社会に出ると全く違います。誰も習ったことがない大きな問題を与えられ、それに立ち向かうのです。
一人の力では解決できないので、みんなそれぞれの得意分野を活かしながら、助け合って答えを見つけていく。そんな場面が圧倒的に増えます。このときに大切なのが、アイデアを否定し合うのではなく、お互いを尊重して、より良いものを作っていく「共創」の姿勢なのです。
私はこの「共創」という考え方を、教育現場だけでなくご家庭でも、友達同士でも実践してみてほしいと考えています。小さな経験の積み重ねこそが、次の世代を担う子どもたちに重要な力になるはずです。