「当たり前を当たり前にしないでほしい」
西千葉子ども起業塾をつくった藤川大祐教授の想い


千葉大学教育学部の藤川大祐教授は、2010年から西千葉子ども起業塾の立ち上げから携わり、学生を含め様々な方々と共に育んできました。その藤川教授に、責任者としてこれまでの西千葉子ども起業塾の活動や、これからのSeeldings of Chibaの活動について、藤川研究室に所属している学生の横山が改めてお話を伺いました。藤川教授に、アントレプレナーシップ教育の必要性や、学生が学ぶべきことなどについて語っていただきました。
※このインタビューは2020年に行われました。

執筆者:中村理紗子
聞き手:横山紗衣莉

アントレプレナーシップ教育の必要性とは?

西千葉子ども起業塾はアントレプレナーシップ(※)を育む活動でありますが、藤川先生は、なぜアントレプレナーシップ教育の必要性を感じたのですか?

横山

※起業家精神のこと。

もともとある仕事に就くことや、もともとある会社などの組織に就職することが当たり前だと思ってはいけないと考えるからですね。

藤川

というと?

横山

既存の会社等で働くという生き方は、今後も多くの人が選択していくでしょう。一方で社会はどんどん変わっていくので、それまでの組織のあり方が新しい課題に向かうときにベストとは限らないわけです。だから起業家精神が今求められているのだと思います。

藤川

そうですよね……。でも起業をするのはハードルが高いと感じてしまいます

横山

若い人だけでなく多くの人が、新しい企業を作ることに対して、敷居が高いと思っているはずです。実際に日本では、新しくビジネスを起こそうという意欲のある人や、そういう関心を持つ人が諸外国に比べて少ないというデータもあるぐらいです。でも実際に起業をした人の話を聞いてみると、気軽に新しい企業をつくっている人もいるのです。

藤川

そうなんですね! びっくりしました。

横山

だからこそ子どもたちや、若い人たちに新しいビジネスを始めることについて、実態を知ってほしいし、必要があれば新しいビジネスを始める選択肢があると思ってほしいのです。

藤川

西千葉子ども起業塾は学生が運営していますが、どのような意図があるのでしょうか?

横山

学生の皆さんは、社会で新しい仕事がどのように作られているかを知らない人が多いと思うんです。特に教育を学ぶ方々は、ビジネスがどのように成り立っているのかを、ほとんど知らないはずです。

藤川

確かにあまり知らないです……。

横山

学校は社会の中では非常に特殊な場で、多くは公的な資金で運営されているので、教員はどうやってお金を稼いでいるのかについてあまり考えないで仕事をしているのです。学校の場しか知らない人は社会で、どういう風にお金が動いていて、どうやって人が動いていたりするのか、また、それによってどのように協力が生まれ、どんな成果が生まれているのかをほぼ知らないわけです

藤川

教育学部生だけでなく、教員の皆さんもそのような傾向にあるということですね。

横山

教員になってからこのような社会の仕組みを学ぶ機会は少ないので、これを知らないまま教員になる人が大半となっている状況は決して良くないです。

藤川

どうしてですか?

横山

社会の仕組みを知らないのに子どもにそれらしいことを教えているわけなんですから。学校教育のなかで、キャリア教育が求められている現状では、教員が社会の仕組みを知らないと、子どもに間違ったことを教えてしまう可能性があるわけです。これはとても困ったことです。

藤川

学生が西千葉子ども起業塾を運営することで、学生には教員になる前に社会の仕組みを知ってほしいということなんですね!

横山

西千葉子ども起業塾を運営していくなかで、様々な職種の人と関わることが出来るので、そのなかでコミュニケーションの大事さを学んだり、あまり触れることのない業種の人と関わって視野を広げたりできます。あるいは、子どもを視野に入れて考えることのきっかけになるなど、様々な良さがあるはずです。

藤川

私も編集者さんやデザイナーさんなど様々な職種の方と関わることができ、日々勉強になることだらけです。西千葉子ども起業塾は、教員志望でない学生にとっても成長がある場なんですね!

横山

そうです!

藤川

西千葉子ども起業塾のこれから

2020年度西千葉子ども起業塾オンラインの様子

西千葉子ども起業塾は2020年、新型コロナウイルス感染症の影響によってオンライン開催となってしまいました。オンライン開催をしたことは今後の活動にどのような効果があったと思いますか?

横山

2020年の成果としてはオンラインでどこまで出来るのかを確認できたということだと思います。

藤川

オンラインの可能性と限界を確認したということですか?

横山

今後も、対面で仕事をする体験を子どもたちにしてほしいです。オンラインだけでは、どうしても話し合いが中心になってしまって、何かをつくったり実際に見て回ったりなどの体験的な取り組みはかなり制約されてしまいます。これまでの西千葉子ども起業塾では地域の商店街に出かけていったり、JFEスチールの製鉄の工場を見学させていただいたりと、体験を通して子どもたちは活動をしていました。

藤川

対面で行って、実際に体験することが重要なんですね。

横山

とはいえ、何もかもを対面でやるべきと思っているわけではありません。一部の取り組みだけでもオンラインでできるのであれば、オンラインと対面を組み合わせてより充実したプログラムを作ることは出来ると思うんです。

藤川

おおー! ハイブリッド化することも可能ということですね!

横山

そうです。2020年の西千葉子ども起業塾では、会計を学ぶゲームを学生が頑張って開発してくれました。オンラインで学べるものを充実させることによって、何もかも対面でやるのではなくて、インプットするものについてはオンラインで提供することを考えても良いと思います。あるいは、オンデマンドで提供しても良いかもしれません。2020年の西千葉子ども起業塾は、対面のみだけではない新たな取り組みの仕方を考えるとても良い機会になったと思います。

藤川
子どもたちが社内のメンバーで話し合いをしている様子(2019年度西千葉子ども起業塾より)

ではこれからの西千葉子ども起業塾は対面だけでなく様々な形で提供される部分もあるかもしれないということなんですね! これからに期待したいです!

最後に藤川教授から現在のSeeldingsの学生メンバーに期待することを是非教えてください!

横山

今までの当たり前を当たり前にしないで学んでほしいと思います。西千葉子ども起業塾を始め、Seeldingsのような取り組みを授業として行っているところってほぼないんですよね。でも、中でやっていると当たり前になってしまうでしょ?

藤川

はい……藤川教授の研究室に入ったらこの活動をするということが当たり前だと思っていたかもしれません。

横山

10年以上やっている活動なので、中にいるとその価値や、希少性を忘れてしまい、同じことを繰り返せばいいんでしょう?となりがちです。そうではなくて、常に今の状況には何がベストなのかを考えて、1つ1つ新しく作っていくという意識でやってほしいなと思います。 それが皆さんにとっての「起業」だと思うんです

藤川

それぞれの代の新しいプログラムをしっかりつくることが、学生にとってのアントレプレナーシップにつながるんですね。

横山

これからも当たり前を当たり前と思わずに、新しいことを挑戦的にやってほしいと思います。

藤川
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