「型にはまった教育を無くしたい」
西千葉子ども起業塾を通して
教育の考え方が変化した藤井あずみの背景


「今の学校にあるキャリア教育とはちがう、子どもが社会の一員であることをリアルに体験できる機会を与えたい」⎯⎯そう語ったのは、千葉大学教育学部3年の藤井あずみさんだ。

藤井さんは、中学校1年生のときに初めて2012年度の西千葉子ども起業塾を見学し、そこで感銘を受け、現在は、10年目を迎えた西千葉子ども起業塾でスタッフとして活躍している。大学生になった今、中学生の頃と比べて教育の考え方がどのように変化したのか聞いてみた。
※このインタビューは2020年に行われました。

執筆者:横山紗衣莉
聞き手:中村理紗子

教育観が大きく変化した中学校1年生

まず、藤井さんが中学校1年生のときに西千葉子ども起業塾に参加することになった経緯を教えてください。

中村

中学生のときに通っていた塾の先生が藤川研究室に所属していて、その方の紹介で西千葉子ども起業塾に参加させていただきました。

藤井

そのときは塾生として参加されたのですか?

中村

いや、主にはスタッフとして「なんでも屋さん」(※)にいました。でも、初めての参加だったので、塾生の子どもたちと同じ気持ちでしたね。

藤井

※各社の活動で必要になる物品の販売やアルバイト派遣を行う役割

なんでも屋さんで仕事をしている学生の様子
(2019年度西千葉子ども起業塾より)

参加して大変だったことはありましたか?

中村

「なんでも屋さん」でお手伝いしているときに、子どもたちから私では対処しきれない無理難題がたくさんありました。しかし、そのとき私は、実際の社会を経験したように感じました。きっと、子どもたちにとっては仕事を依頼し、ほかの人が自分のために働いてくれることが良い経験になっているのだとも思いましたね。

藤井
なんでも屋さんの学生が子どもたちのお手伝いをしている様子
(2019年度西千葉子ども起業塾より)

参加してみて、藤井さんのなかで変化はありましたか?

中村

私のなかでの教育観が変わりました。教育上、子どもは子どもとして扱うものだと思っていましたが、大学生や社会人の方々は、子どもたちの案に対して「それは難しいですね」などと厳しい言葉をかけていました。

藤井

子ども扱いしないんですね。

中村

そうなんです。子どもだからといって甘やかさず、一人の社会人として扱う感覚に圧倒されました。小学生のうちから自分で考えて行動に起こすことを求める教育があると知りました。それからは、教育はただ教わるだけのものではないと考えるようになりました。

藤井
JFEスチール株式会社さんに交渉している様子
(2019年度西千葉子ども起業塾より)

西千葉子ども起業塾での経験が藤井さんの考え方を大きく変え、今の藤井さんにつながっているのですね。

中村

そうですね。この経験は自分に大きな影響があったと思います。また、大学生が自分たちで企画し、活動していることにも驚きました。小学校や中学校では、先生から教えられることばかりで、自分で何かを考えて行動することはあまりないように思います。そのせいか、大学生がとてもカッコよく見え、自分も藤川研究室に入って、西千葉子ども起業塾のスタッフとして活躍したいと思うようになりました。

藤井

前例がない中、戦い抜いた西千葉子ども起業塾スタッフ

次に、大学生になってスタッフとして参加した西千葉子ども起業塾についてお聞きします。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響がありオンライン形式での開催となりました。活動のなかで一番大変だったことを教えてください。

中村

準備が本当に大変でした。西千葉子ども起業塾は過去に10回行われてきていますが、オンラインでの開催は一度もありませんでした。そのうえ、コース別活動など新たな試みもあったため、1から全て作り上げなければならない重圧に押しつぶされそうでした。知識もないなか、様々なことを想定して、試行錯誤することはとても大変でした。

藤井
オンラインでの会議にて企画内容について藤井さんがプレゼンをしている様子

前例がない中での準備はとても大変でしたね。

中村

そうなんです。そのうえ私の場合、対面での経験しかなかったため、対面でしていたことを全てオンラインで実現することは、対面での経験があるからこそ不可能だと思っていました。

藤井

対面でこその起業塾だと思っていたのですね。

中村

そうなんです。JFEスチールさんの工場見学に行ったり、社会人の方から直接お話をうかがったりなど、対面で行ってこその起業塾だと考えていました。

藤井
子どもたちがJFEスチール株式会社さんの工場見学の準備をしている様子
(2019年度西千葉子ども起業塾より)

大変なことに対して藤井さんはどのように立ち向かったのでしょうか。

中村

企画開発プロジェクトチームのメンバーで助け合いました。私一人でできることは本当に小さなものです。しかし、どんなに大変なことがあっても、お互いに助け合って、支え合いました。みんなが頑張っていたので自分も頑張らなくてはと思っていました。

藤井

藤井さんは主にどのような仕事をされていましたか?

中村

最初は全体を見るように心がけていました。しかし、他のメンバーが協力してくれたので、企画開発プロジェクトチームのなかでも会計ゲームの制作に専念するようにしました。チームの5人で協力して作り上げることができたと思うので本当に感謝しています。

藤井

お互い支え合いながらの準備でしたね。スタッフとして一番楽しかったことはなんでしょうか。

中村

当日が一番楽しかったです。実際に子どもたちに会えたわけではないですが、私たちが一生懸命準備してきたことを子どもたちが楽しんで取り組んでいる姿を見て、本当によかったなと思えたからです

藤井
2020年度西千葉子ども起業塾オンライン「Bシープ会社」の会議の様子

初めてのオンライン開催で、ほかにも大変なことがありましたね。

中村

報告・連絡・相談の「ほうれんそう」が大変でした。対面では、直接お話せばすぐ伝わるのですが、SNSなどのチャット機能で情報を共有することがとても難しかったです。自分が伝えたと思っていても相手には正しく伝わっていなく、相互理解ができないまま活動が進んでしまうなどのトラブルがありました。

藤井

確かに、対面だとお話を聞いて理解できなければ聞くなど円滑なコミュニケーションを図ることができますが、チャットだと読んでさらに文字を打つ工程が入るので手間がかかりますもんね。

中村

このような面から考えると対面式での開催がいいなと私は思いました。

藤井

起業塾スタッフ1年目を終えて、そして教員になってからの展望

スタッフ1年目を終えて、初めて参加した中学生の自分と、今の自分とを比べてどのように変化したでしょうか。

中村

自信を持てるようになりました。というのも、会計ゲームという一つのコンテンツを作り上げることができたからです。会計ゲームのメンバーで試行錯誤して改良に改良を重ねた結果だと思います。今までは、ただ大学で授業を受けるだけの学習でしたが、この活動を通して様々なことを想定して、実際に行動に移し、実践的に学べたことが私にとってはとても大きかったです。

藤井

藤井さんのなかで会計ゲームの作成はとても大きかったのですね。

中村

そうですね。後輩に渡せるコンテンツを作成することができたのはとても誇らしいです。

藤井

藤井さんは大学卒業後、小学校の教員になりたいそうですね。西千葉子ども起業塾での経験をどのように生かしたいと考えていますか?

中村

私が教員になったら子どもたちに社会の一員を体験できる機会を与えたいと考えています。私は、もともとキャリア教育に対して疑問を持っていました。こんなことをして意味があるのかと。でも、実際に今回起業塾を実践してみて、たったの三日間で大人と関わり成長していく子どもたちの姿をみて驚き、考えが変わりました。これは、私がぜひ存続させたいと思いました。

藤井

西千葉子ども起業塾は藤井さんの教員人生の方向性を示してくれたのかもしれません。

中村

そうですね。教員になっても今の学校の既存のスタイルに囚われるべきではないと感じたと共に、学校外の方々と関わる機会を積極的に持つべきだと思いました。

藤井
2020年度西千葉子ども起業塾オンラインの様子

藤井さんにとって西千葉子ども起業塾の魅力とはなんでしょうか。

中村

大学生も子どもも一生懸命になれることです。大学生は、子どもたちに良い学びを与えたいという思いを胸に必死に準備し、当日は子どもたちの様子をみてたくさんのことを学びます。これが、自分たち自身の成長につながります。また、子どもたちは、今までには経験したことのない新たな挑戦に全力で取り組み、子どもとしてではなく一人の社会人として扱われます。そして、実社会で生きていくためのスキルを身につけることができます。このように西千葉子ども起業塾は、それぞれの人がそれぞれの立場で一生懸命になれる活動だと私は思います。

藤井

記事一覧